林経協の政策提言

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『持続可能な森林の管理と経営』推進のために(要望と提案)

平成13年10月23日
(社)日本林業経営者協会
会長 古河久純

森林施業計画制度の改訂とCOP6合意にともなう、政策への要望と提案、並びに『森林経営認証プログラム』の枠組み提案


多面的機能を持続的に発揮する林業経営実現のために・・・

森林施業計画制度の新たな改訂作業が進むのにともない、とくに機能区分への取り組み方について、『持続可能な森林の管理と経営』を目指す林業者に支障が生じないよう、運用上の配慮を要望します。

また、COP6における京都議定書の基本的な合意に関し、森林・林業分野の役割と貢献のあり方について、迅速な対応を要請します。

さらに、国際性を意識しつつ、日本の森林・林業事情に配慮し、かつ森林施業計画制度とも繋がった、民間活力による『森林経営認証プログラム』の可能性に着眼して、その基本的な枠組みを提案します。

行政サイドの理解ある対応とともに、関係団体はじめ市民組織など各位の協力と支援を待望し、日本の森林・林業再興を促す処方箋となることを念願するものです。

◆背景と趣旨◆

『森林・林業基本法』が生まれ、森林施業計画制度の、新たな改訂作業が進められています。

また、国際的には、COP6に於いて京都議定書の基本的な合意が整い、国内外とも森林管理への期待と関心は一層高まって来ております。

その一方で、我が国の林業経済は、依然として低迷を続けています。そうした中に漂いながらも、『持続可能な森林の管理と経営』を目指して、日々腐心している林業経営者がいるということを、今一度、広く知っていただく必要があると考えています。

地球規模の森林破壊の問題は、単に環境管理機能だけでは片づけられないことを、 過去、世界の人達が経験してきました。その解決の前提となったグローバルな社会理念が、『持続可能な森林の管理と経営』です。

国際的な環境の時代を迎え、循環型社会に相応しい林業経営の姿を示すことによって、『持続可能な森林』は『林業の持続』なくしては実現され得ないということを、一般市民の方々に良く理解してもらわなければなりません。

そのためには、私たち自らが、市民も交えて"持続可能な森林"の体系を整えるため、"社会的認知が得られる仕組みをつくる活動"に取り組む必要があると考えます。

昨今のような、国内外における森林問題の情勢を考えますと、私たちの活動次第によっては、我が国森林・林業の"変革の好機"になるとも考えられなくはないはずです。

そこで、(社)日本林業経営者協会としては、森林行政と林業界を繋ぐ基幹的な立場にある『森林施業計画制度』に軸足を置きつつ、根本的な観点について要望と提案を行うことといたしました。

具体的には、
(1) 新たな『森林施業計画制度』の運用に関する要望と、
(2) COP6の地球温暖化対策に対する林業経営者としての役割について検討を行うとともに、これらを通じて、
(3) 民間活力による『森林認証』(当分科会では『森林経営認証プログラム』と仮称する。)に着眼しつつ、その基本的枠組みについて提案するものです。

とかく、林業界は、今まで市場や消費者サイドからの一方的なニーズに押され、結果、森林管理の質的低下を招くという、悪循環を繰り返してきました。そして今や、森林環境問題においても、同じ轍になりかね得ない情勢にあります。昨今の、国際的な森林管理体系重視の動向をふまえ、いち早くその自律的対応が望まれるところです。

そこで、国際性にも意識しつつ、我が国の社会システムに相応しく、かつ現行の森林施業計画制度を基盤に位置づけた『森林認証』の擁立を提案し、森林管理の質的向上に効果的に働く体系づくりを、社会に向けて発信し理解を求めたいと考えます。

そして、日本の森林・林業再興の処方箋として、その役割の一端を担うことが出来るよう、念願するものです。

なお、『森林認証』の提案は、将来にわたり、全国の森林・林業界に少なからぬ影響を与える可能性があり、林経協としては、客観性と公正を期すため、既存の他の森林認証機関とは中立の立場にたち、基本的枠組みについて提案する事といたしました。

林経協としては、今回の要望と提案を行ったのちも、広く会員からの意見を求め、引き続き『持続可能な森林の管理と経営』全般についての議論を重ねるとともに、『森林経営認証プログラム』を含め、求められる諸テーマについて検討を加え、今後とも関係先に意見具申を続ける予定です。

(1) 新たな森林施業計画制度の運用に関する要望と提案
今回の森林計画には、新たに"森林機能区分"が導入され、同時に、市町村単位による森林整備計画へと移行することになった。その政策は、"資源と機能の管理計画"へと方向付けされたもので、より属地性の強い計画制度になったと見ることが出来る。

それは、不在村所有山林や放置森林などに対しては、地域管理の効果が期待できると思われるものの、林政の基本である『持続可能な森林の管理と経営』を目指す"保続林業"の立場に対して、充分な配慮が尽くされているのであろうか?

制度の運用の仕方によっては、『持続可能な森林の管理と経営』を目指す森林所有者(以下経営体と称する)にとっては、まとまった経営体系が分断されることもあり得、保続林業への危惧とともに、管理業務の煩雑化の懸念も抱いている。

本来の"保続林業"の経営推進に支障を来たさないように、配慮を期待したい。

以下に、その要点を列記して、森林施業計画制度の施策に対し要望するものである。

 

1) 市町村単位の森林整備体系が具体化するにあたり、市町村によっては専門の担当者が不足し、人材を欠くところも少なくない。都道府県としての対応支援はもとより、地域の民間技術者等の活用も含めて、柔軟な計画行政の仕組みづくりを望みたい。
2) 市町村を跨いで森林を管理する経営体等にあっては、施業計画の作成・手続き単位を出来るだけ広域とし、少なくとも都道府県を窓口とするなど、行政にとっても、民間にとっても、ともに効率的かつ合理的な計画業務となる措置を求む。
3) 市町村整備計画等を策定するにあたっては、木材生産や育林計画、作業道や林道計画等が、地元の森林所有者はじめ市民有識者の意見が、前もって反映されるよう、地域での合意形成の手法を確立する必要がある。
4) 機能区分によって、森林所有者の経営方針や、指向する施業計画に支障ある事態が起こらないよう、"保続林業"を優先した森林計画となるよう、各地方自治体に運用上の指導を徹底すること。
5) 機能区分の実際にあっては、森林所有者はもとより、地域の関係者と事前に充分なコンセンサスを図られたい。とくに保安林指定地については、機能区分を持って、一律的な施業管理の指導とならないよう、経営意志を反映させるとともに選択の余地を与えること。
6) また、機能区分によって、森林の管理業務に負荷が掛からないよう、特に保安林に係る許認可等を含め、施業計画業務のなかで一元的に処理できるよう、手続き等の統合簡素化を望みたい。
7) さらに、機能区分による施業計画の指導にあたっては、とかく人工林に視点が集まりやすいが、天然林施業に対しても一層意識して、生態的にも優れた天然林の育成推進に配慮すべきである。
8) 計画制度の改訂に伴い、制度優遇や助成体系にも新た施策が生まれると見られるが、一律に}その措置を与えるのではなく、『持続可能な森林の管理と経営』への活動状況や計画履行率に応じた付与など、政策誘導とインセンティブ、さらには長期の計画を支援するセーフティネットのあり方などについて、より深めた議論が必要と考える。
9) 『持続可能な森林』の造成を目指し、長期育成循環施業等の導入促進を図るためには、農林漁業金融公庫などの借入金につき、償還期間の延長や借り換えなどの措置を充実するとともに、利子負担軽減等に一層の配慮を望む。
10) 新たな制度に向けて、政策誘導の効果を高め、参加意欲の向上を図るためには、現場での具体的施策や手続き、関連する助成体系の運用基準など、制度と併せて、施策の実施要項を早期に開示することが肝要である。それによって、新たな制度の啓蒙推進は、より確かなものになると考える。

 

 

(2) COP6合意にともなう、林業経営者の新たな使命と役割 地球温暖化対策への貢献のために・・・要望と提案

COP6において京都議定書の大枠合意がなされ、地球温暖化防止の具体策として、森林によるCO2吸収効果が、最も注目されるようになった。CO2の排出権取引やCDM(クリーン開発メカニズム)、共同実施などが、いよいよ現実のものとなる時代を迎えている。

こうしたとき、我が国の民間の林業経営者は、CO2対策にどのように貢献できるのか。

また、そのためには、森林管理のうえでどのような準備と対応が必要なのか。

この観点からの早急な整理が必要である京都議定書3条4項に定められた、CO2吸収に効果のある『森林管理の追加的人為的活動』のために、成すべき森林管理の方向が、速やかに整えられなければならない。

それには、当事者とも言える森林・林業サイドとしては、資源量やCO2機能評価等の技術的分野にとどまらず、国際的に通用するCOP6にむけた森林管理の政策概念を、関係省庁とともに早急に組み立てるべきと考える。

当面の課題としては、持続可能な森林管理体系のもと、
(1) CO2吸収に効果的な、『追加的人為的活動』となる施業の内容と認定方法
(2) CO2吸収力の森林評価法、ならびに第三者による認証方法
(3) クレジット化の際に生じると見られる、森林格付けのあり方
(4) 排出権取引の公正かつ適正な市場形成
などに対して、迅速な対応が期待される。

 

(3) 民間活力による『森林経営認証プログラム』の枠組み提案

森林問題がグローバル化して以来、国際的な森林認証機関の活動が活発化している。また海外では、欧米各国を中心に、それぞれの国情に沿って工夫した、森林認証システムを導入するなど、民間レベルによる森林管理形態が進みつつある。 一方、我が国においては、他国に比べても優れた独自の『森林施業計画制度』と『保安林制度』によって、森林が守られてきた。

しかし、COP6の国際的合意はもとより、モントリオールプロセスなど、『エコシステムの保続』を前提とした『持続可能な森林』は、グローバルな環境政策として世界各国に定着して来ている。

いまや、我が国にとって、国際的に通用する森林管理基準の整備は、避けて通れなくなっている。ちなみに、先進国のなかで、各国固有の森林認証システムを擁していないのは、我が国のみと言われてもいる。

このような世界の動きに、機微に対応出来ず推移したとなると、やがて森林認証やCOP6の世界標準から取り残され、国内林業に一層の危機を招くことになるとも限らない。

しかし幸い、我が林経協の会員の間には、国際性への意識も理解しつつ、我が国に相応しい『森林認証』を求める声が出始めてきている。

そこで、公的認定である既存の『森林施業計画制度』を横糸とするならば、これを基礎に連繋する縦糸として、『森林経営認証プログラム』の構築を図ることによって、民間活力による自律的な森林管理体系の推進を提案するものである。

《『森林経営認証プログラム』の枠組みについて》
 
『エコシステムの保続』を前提に、『持続可能な森林の管理と経営』を目指すなかにあって・・・
(1) 我が国の森林・林業事情に配慮し、日本の社会システムとして独自にデザインされ、
(2) それによって、広く地域市民の理解と合意形成が図られること。
(3) 認証活動により、エコシステムの保全管理を通じて、経済・環境・文化的資源を育て、地域社会に貢献できるものに。さらには地球温暖化対策への貢献を。
(4) 森林施業計画制度と連繋された枠組みのもと、徒に重層化することなく相互補完的な役割を果たす構造に。
(5) 所有規模や経営形態、管理目標の違いに配慮し、多様なタイプの林業者に参加の機会が与えられる様、認証基準メニューを用意し、自主的に選択できる手法の導入を。
(6) 認証基準や履行状況に応じて、市民社会的なインセンティブやグリーン調達、さらには長期の計画に対するセーフティネット等を整備し普及すること。
(7) そして、特に重要なことは、国際的に通用する認証基準を策定すること。国際標準とも言えるモントリオールプロセスを基本とするはもとより、国際的な認証機関との間のネットワーク化や相互認証、或いは融合化を図る。
(注)

分科会委員の一意見として、既存の国際的認証機関の基準の下で、認証システムを作る方が、国際的認知が得やすく、自前の日本型認証基準の設置は混乱を招くのみ、との指摘があった。

しかし、分科会では、"森林認証は、我が国固有の認証スキームとして確立してゆくべき。また、独自の森林認証によって、日本の林業は欧米のそれとは異なっていることを、世界に向けて発言できる。"とする意見が寄せられた。委員の意見の太宗は、森林施業計画制度と連繋しつつ、徒に重複して負荷が掛からないよう、包括的な枠組みを認識したうえで、認証システムをつくり、相互認証等による国際化を図ろう、とするものであった。

なお、国際性に配慮しつつも、我が国に相応しい『認証プログラム』を確立するということは、木材貿易問題や、不法伐採問題、あるいは将来増加が予想されるラベリング製品に対して、その適格性を判定できる基準を、我が国が自ら持ち合わせる、ということをも意味する。

即ち、国内林業が長年にわたって輸入木材の課題と直面して来た、と言う歴史的過程の中にあって、"『認証プログラム』を通じて国産材を再確認する"ことに、一石を投じることにもなると思われる。

その面からも、我が国の森林・林業事情に即した『認証プログラム』の整備は、国産材の品質レベル向上と市場性強化に貢献できるもの、と成り得るに違いない。

さらに、99年に制定された『住宅の品質確保の促進等に関する法律』や、建築基準法に新たに定められた『性能規定化』とともに、木材・住宅業界にとっても必須の存在になって行くものと考えられる。

なお、輸入木材の問題に関し、セーフガードはWTOに盛り込まれた政策手段の一つとして重要と考えている。

しかし、長期的な森林・林業再興への対策としては、WTOの"緑の政策"として認められている、環境保全活動や研究開発への支援、あるいは天災や長期の投資に対するリスク保障など、森林・林業の基礎体力を養う仕組みづくりが、不可欠と考えている。

その一例として、『認証プログラム』を通じて、市民に理解されつつある森林愛護活動や、自然植生・野生鳥獣の調査モニタリングなど、環境保全対策にもっと林業の現場を活用するならば、新たな"環境資源産業"を生み出すこととなるに違いない。

それはまた、山村振興と雇用創出にも貢献できる可能性さえ持ち合わせている。

このように、『認証プログラム』は、森林・林業の基礎体力をつくる仕組みの一つとして、諸種の林業政策とも協調しながら機能することが可能となり、相乗効果が膨らむものと期待される。

以上、ここに提案した基本的な枠組みを、実現させ推進するためには、行政サイドからの理解ある側面的指導が欠かせない。

とくにこのプログラムに臨む者に対しては、森林施業計画制度を背景に、グリーン調達など、市民社会的なインセンティブやセーフティネットの誕生が促進されるよう、政策上の配慮に期待が寄せられる。

そして、『森林経営認証プログラム』が、≪ 森林・林業再生への架け橋 ≫となって、広く普及し進展して行くことを願望するものである。

当分科会による提案ののちは、これが速やかに実現されるよう、関係省庁ならびに、業界、学究機関はもとより、自然保護関係のNGOや各方面の市民団体、マスコミ等々に意見を求め、協力と支援を仰ぐ考えである。

そして、公正かつ客観性ある、認証システムの策定を図るため、《これら関係諸団体によって構成する第三者機構》にその論議を委ね、認証基準のルール作成や運用体系の構築、さらには他の認証機関との相互認証や融合化のあり方等々、『森林経営認証プログラム』擁立の検討を進めることとしたい。

〔 別 添 〕
(社)日本林業経営者協会『持続可能な森林の管理と経営』分科会

『森林経営認証プログラム』の枠組みの概念、並びに認証基準策定の基本的考え方は、次のように整理される。


『エコシステムの保続』を前提に、『持続可能な森林の管理と経営』を目指すなかにあって・・・
(1) 我が国の森林・林業事情に配慮し、日本の社会システムとして独自にデザインされ、
(2) それによって、広く地域市民の理解と合意形成が図られること。
(3) 認証活動により、エコシステムの保全管理を通じて、経済・環境・文化的資源を育て、地域社会に貢献できるものに。さらには地球温暖化対策への貢献を。
(4) 森林施業計画制度と連繋された枠組みのもと、徒に重層化することなく相互補完的な役割を果たす構造に。
(5) 所有規模や経営形態、管理目標の違いに配慮し、多様なタイプの林業者に参加の機会が与えられる様、認証基準メニューを用意し、自主的に選択できる手法の導入を。
(6) 認証基準や履行状況に応じて、市民社会的なインセンティブやグリーン調達、さらには長期の計画に対するセーフティネット等を整備し普及すること。
(7) そして、特に重要なことは、国際的に通用する認証基準を策定すること。国際標準とも言えるモントリオールプロセスを基本とするはもとより、国際的な認証機関との間のネットワーク化や相互認証、或いは融合化を図る。

▽ 国産材需要拡大に向け政策提言を提出
 

『国産材需要拡大分科会(古河久純座長)』における検討及び1月30日開催ののシンポジウム『スギ集成材の可能性』を踏まえ、 以下の政策提言を取りまとめ、3月25日(月)林野庁に提出した。

スギの需要拡大に関する政策提言

平成14年3月25日
(社)日本林業経営者協会
会長 古河久純

(社)日本林業経営者協会は、平成13年5月の総会以降において、いくつかのプロジェクト(分科会)を立ち上げました。

それは『持続可能な森林の管理と経営』、『国産材需要拡大』、『効率的な林業経営システム』等に関するものであり、これら分科会の中間報告として、平成13年10月には、『持続可能な森林の管理と経営分科会』から要望と政策提言を行っているところです。

今回、国産材需要拡大分科会は、今後のわが国の林業・木材産業振興政策として、スギ集成材事業の展開が不可欠という認識に基づいて、スギ集成材需要拡大の方策についての政策提言を取りまとめました。

以下その概要を、
 1 『現状認識-スギの基本問題-』
 2 『突破口-スギ集成材事業の可能性-』
 3 『展望-スギ集成材事業の方向-』
の順で述べます。

当協会としては、林野庁の施策の中で、スギ集成材事業に関連する支援策が強化され、速やかにこの事業が軌道に乗ることにより、国産材需要拡大の展望が開けることを期待していますので、よろしくご検討をお願いする次第です。

なお、この分科会(座長 古河久純)では、スギ集成材に関心を有する当協会の会員と委嘱した外部の専門家や研究者等とで分科会を構成し、数回の検討会とシンポジウムを経て報告を取りまとめており、これについては、当協会の月刊誌である『林経協月報』の3月号に掲載していますので、参考にしていただければ幸甚です。

 

1 現状認識 - スギの基本問題 -

わが国には、戦後の拡大造林によって造成された資源を中心に、 平成11年現在、面積で1,035万ha、蓄積で21億7千万立方メートルに達する膨大な人工林が存在している。(林野庁『森林資源現況』から推計)このうちスギの占める割合は面積で44%、蓄積で57%程度であり、しかも、伐採可能な面積割合(Ⅷ齢級以上)は4割を占めており、スギ人工林は確実に主伐期へ入りつつある。したがって、スギ人工林の有効利活用は、林業・木材産業の振興につながるだけでなく、森林所有者の多くが居住している山村経済の活性化にも寄与する可能性が極めて大きい。

ところが、こうしたスギ人工林の存在にもかかわらず、スギの素材(丸太)生産量は1994年をピークに減少しているのが実状である。もし、このような状況が今後も続くとすれば、林業・木材産業の地盤沈下と森林所有者の経営意欲の減退は免れえないし、ひいては人工林資源の劣化にもつながる危険性を有している。今まさに、スギ人工林を活用し、林業労働者、地場製材工場の減少に歯止めをかけなければならない時である。

 

それでは、スギの素材生産量は何故減っているのか。その理由として次のことが考えられる。


(1) 長引く不況、金融危機などによって、国民の将来に対する不安感が増幅し、多くの消費者が住宅、特に木造住宅の大宗をなす持家の新築にきわめて消極的になっている。
こうした木造住宅需要の縮小に対して、外材、国産材を含めた製材品供給が過剰気味で推移しており、これがスギ製材価格、スギ素材価格、スギ立木価格下落の大きな要因になっている。
その結果、森林所有者の経営マインド(伐採性向)が冷却化し、素材生産量の減少を招いていると 考えられる。

 

(2) スギ製材品価格に大きな影響を与える外材輸入の動向が、1990年代中葉を境として、それまでの米材(特に米ツガ製材品)から、北欧や東欧から輸入されるホワイトウッド(一部レッドウッドを含む、以下同じ)に変わっている。
スギと米ツガの競争時は、柱や母屋・桁などの構造材の未乾燥・ムク材 同士の競争であったが、平成12年4月に施行された『住宅の品質確保の促 進等に関する法律』(『品確法』)による瑕疵担保責任により、住宅生産者側では構造材の未乾燥 ・ムク材は実質的に使用されなくなっているのに対して、ホワイトウッドは 板取りを基調とし完全人工乾燥処理した狂いのない製材加工品として日本市場へ参入しているという違いを生み出している。

このような外材輸入動向の変化に乗じて、ホワイトウッドが集成管柱の原料として日本国内で大量に消費されていることは周知のとおりである。こうしたホワイトウッドなどを原料とした集成管柱が、わが国の柱角市場でシェアを伸ばし、スギの需要が着実に減少している。このことがスギの素材生産量の減少にも影響を与えている。

この結果、特に、南九州や四国では、スギ人工林の皆伐跡地への再造林が行われずに放置されるケースが現れ始めているおり、持続可能な林業経営の展開にとって大きな不安材料となっている。

以上が、1990年代後半に入って惹起しているスギの基本問題であると認識している。

2 突破口 - スギ集成材事業の可能性 -

では、このような窮状をどのようにして打開すべきか。それには、スギの需要拡大を実現することが最重要課題であると考える。

ところで、ここ数年の林野庁のスギの需要拡大施策を見ると、スギ製材品(特に心持ち柱角)の人工乾燥処理技術の確立とその普及が中心的な課題になっているように思われる。

この施策そのものは、当協会としても時宜を得たものと大いに歓迎しているが、その一方で、残念ながらスギ心持ち柱角の人工乾燥はなかなか思うように進捗していないという実態がある。

林野庁の公表した数字で示すと、国内の製材工場から出荷される製品のうち、人工乾燥されたもの(含水率25%以下)は、全体の11%に止まっている。

そこで、スギの需要拡大策については、スギの人工乾燥化とともにスギの集成材化も視野に入れた取組みが必要であると考える。

なるほど現状では、ホワイトウッド集成管柱よりもスギの集成管柱の製造コストが高く、これがスギの集成材化事業展開の大きな阻害条件になっていることは重々承知している。 しかし敢えて私たちが、現在、スギ集成材の提言をする積極的な理由は次のようなものである。

 

(1) 製造コストの格差を販売方法の工夫によって解消することが可能である。
例えば、林野庁の補助事業を活用して設置した『三陸木材高次加工協同組合』(岩手県住田町)の施設は、2シフト(一部3シフト)で1日40立方メートルのスギ集成管柱(一部通柱)を生産しており、今後、さらに事業の拡大とコト低減に取り組むべく鋭意努力している。
その販売方法をみると、同じく林 野庁の補助事業で設置した『けせんプレカット事業協同組合』と連携して、仙台市にある中堅地域ビルダーへ、材工パック(部材に大工による建方をセ ットにして販売)、P&P(ポスト&パネル)、金具締工法などを利用して販 売している。
このため取引先のビルダーは、ホワイトウッドよりも高いスギ集成管柱を購入しても、自社の営業活動に専念できるというメリットを享受しており、数年前からホワイトウッドからスギに切り換えている。
つまりホワイトウッド集成管柱との単価の競争ではなく、付加価値を加えて顔の見える相手と取引しており、独自のスギ・ビジネスと評価できる。
このような『三陸木材高次加工協同組合』の取組みは、他県の林業・木材 関係者の注目を浴び、鹿児島県では既にスギ集成管柱生産が開始(林野庁の 補助事業を活用)しているし、秋田県、三重県、熊本県、宮崎県などでもスギ集成材事業が計画されていると聞いている。関係者間でスギの集成材化に対する関心が急速に高まりつつあることを示している。
現在のスギとホワイトウッドの集成管柱を使用した場合の木造住宅1戸当たり価格差は5万円程度であるが、今後のスギ集成材生産者によるコスト低減努力の実現可能性を考慮すると、価格差は縮小するものと考えられ、今がスギ集成材化のビジネスチャンスともいえる。

 

(2) さらに、スギの需要拡大のための1つの突破口として、私たちは『品確法』の住宅性能表示制度、特に『劣化の軽減に関する項目』に注目している。それを簡単に述べると、外壁に通気層を設けた構造にした場合、『劣化の軽減』 で最高ランクの等級3を得るには、薬剤処理を行わない場合には、スプルース(ホワイトウッド)では13.5㎝角以上が求められるのに対して、スギは12.0㎝角で対応可能だという点である。即ち、品質の劣化においてはスギの方が上と評価されており、ここにスギのシェア拡大の糸口を求めたい。
この視点に立ち、従来使用していたホワイトウッドからスギ12㎝角へ全面的に転換した住宅建設企業も現れており、こうした企業にスギ集成管柱を供給しているのが先述の三陸木材高次加工協同組合である。

 

(3) もう1つは、為替相場で円安の動向が出てきたことである。
昨年11月以降の円安により、わが国の木材市場の実質的なプライスリーダーである外材の 供給コストが上昇することは十分に考えられる。1ドル=130円水準が続けば、スギ集成材事業にとってもプラスの条件になると考えられる。
ホワイトウッドを原料とする集成管柱生産は、絶えず為替相場の変動というリスクを背負っているが、スギの場合は、原料価格に大きな変動がなければ、コストダウンによって量産化は可能であると思われる。

 


(4) 先述のように、長引く不況によって木造住宅の着工戸数が減少しているが、増改築の潜在的需要は確実に存在していると考えられる。
例えば、三和総合研究所が公表した『住宅需要の中期展望』では、 『これまで住宅マーケット においては、住宅新設の重要性が高かったわけだが、これからはすでにある住宅ストックに関連した市場が拡大してくるであろう。具体的には、中古住宅市場や増改築市場があげられる。
…中古住宅流通が拡大するためには、住宅ストックの価値が維持されなければいけないが、これは増改築ニーズを拡大させる』と予測している。1980年以前の木造住宅を増改築の対象とすれば、現在の木造住宅(約2,400万戸)の57%がこれに該当する。
この潜在的需要、例えば、1戸建の改築をしたい、1戸建住まいの世帯は さらにグレードの高い家に住みたいといった需要の掘り起こしもスギ集成材 の需要拡大と関わって大きな意味をもってくると考えられる。

3 展望-スギスギ集成材事業の方向-

以上を踏まえ、日本林業経営者協会はスギ集成材事業の方向について次のような提言をする。

 

(1) 『品確法』の住宅性能表示制度の『劣化の軽減に関する項目』に関連したスギの優位性や日本の風土に育まれたスギの利用は、環境保全、山村の維持等にも寄与することなどについての理解が高まるよう普及・啓発活動を更に積極的に推進されたい。

 

(2) いろいろな条件下における対腐食性(耐用性)に関して、スギとホワイトウッドとの比較における実証的な調査・研究を早急に実施されたい。

 

(3) モデル事業などを利用したスギ集成材化事業への支援として、当面全国10ヶ所、年間50万本生産規模の工場を設立することを推進されたい。同時に、スギ集成材化事業を担う人材を育成する施策を講じられたい。その際の事業 主体は森林組合に限定することなく、スギ集成材化に積極的に取組む事業体にも措定されることを期待する。

 

(4) スギ集成材化事業にとって、コスト縮減や安定操業の維持は大きな課題であることから、集成材生産者とスギ素材やラミナを供給する事業体(素材生産事業体や製材工場)との原木や均質なラミナの安定供給システム及び製品流通・工務店・住宅メーカーとの製品の長期予約売買契約システムの構築などについての仕組みを創設する施策の実施を要望する。

 

(5) スギ集成材の特性を生かした住宅工法の開発やスギ集成材を活用した公共施設の建設への支援のほか、地域材を利用して作られたスギ集成材を使用する住宅を建設した場合の優遇措置を創設・拡充(例えば、スギ集成材を使用した場合、需要サイドである工務店ないし住宅発注者に対して、なんらかの還元をする仕組の創設など)する施策の実施を要望する。

 

(6) 国産材のヒノキ、カラマツ等の需要拡大も緊急の課題であり、これらの集成材化事業について、スギと同様の対応を要請する。

もとより、こうした措置については、林野庁の単独施策では限界もあると考えられるので、地域材利用推進の観点から、国土交通省等の他の省庁や地方自治体などと協調した取組みを積極的に展開するよう要請する次第である。

(参考)  国産材需要拡大分科会構成メンバー
森林総合研究所 林業経営・政策研究領域チーム長
遠藤日雄氏
全国木材組合連合会
常務理事 角谷宏二氏
日本住宅・木材技術センター 情報業務部長
小柳好弘氏
日刊木材新聞
取締役 岡 智氏
ナイス株式会社
集成材営業部長 的場幹夫氏
地方自治体 秋田県 参事
青山貞紀氏
同 宮崎県林務部長
上河 潔氏
日本林業経営者協会
分科会座長 古河久純氏
 
同 分科会会員各位

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