林経協の政策提言

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『森林施業計画制度』運用に対する要望書


林野庁森林整備部長
梶谷辰哉 殿

平成16年6月21日
(社)日本林業経営者協会
会長 古河久純

『森林施業計画制度』運用に対する要望書

平成13年7月の森林法の一部改正に伴い、新たな森林施業計画制度の運用が開始されてから、2年が経過しました。

この間、認定申請を始めとして変更申請・実行届けなど一連の認定業務の実績が積み重ねられるにつれ、森林施業計画の実務を遂行して行く上で、林業経営の現場からは様々な問題点や・改善への希望が湧き上がってきております。

(社)日本林業経営者協会としては、新森林施業計画制度が、持続可能な森林経営を目指す我々にとって、一層有効なものと成り得る様、以下に諸々の要望を致しますので、速やかな対処と、その実現を図られるよう要請します。

<本要望書は、当協会内の『持続可能な森林の管理と経営』分科会(座長 真下正樹)において、会員の意見を徴してとりまとめたものです。>

 


平成13年の森林法の改正に伴う森林施業計画制度は、森林管理の促進を幅広く図ってゆくために、森林施業計画の認定を受けられる対象が、これまで森林所有者に限られていたものが、森林組合や素材生産業者・個人等々が、『森林の施業や経営の委託契約』を結ぶことによって、森林所有者に代わって森林施業計画を作成して認定を受け、森林施業に取り組むことが出来るようになりました。このことは、実質的に計画制度に参加出来る枠を広げたものとして、効果が大いに期待されます。

然し、一方で森林施業計画制度が、旧制度から新制度に移行するにあたり、

* 森林計画の推進は、市町村森林整備計画に基づいて全てが運用されるところとなり、かつ施業計画業務の事務権限の多くが市町村に委ねられることとなった。
* 市町村整備計画で全ての森林を、『水土保全林』『森林と人の共生林』『資源循環林』の3機能に区分されることとなり、それぞれの区分ごとに認定基準が設けられ、計画を立案し、認定を受けることとなった。
* 30ha以上の団地的なまとまりを持つ森林が認定の対象となった。
* 前項の様な、基本的な変更が行われたことによって、一経営体が施業計画に則って忠実に推進するためには、市町村整備計画ごと、3機能区分ごとに、わざわざ経営山林を分断して管理経営しなければならなくなった。
* 従来の属人的施業計画に代わって、属地的な施業計画の制度運営へと、大きく転換がなされたといってよい。

したがって、今回の新森林施業計画制度は、『持続可能な森林の管理と経営』を目指して日々活動してきた森林所有者、とくに我が協会のような会員にとっては、持続的な経営形態への方向が還って軽視され、分断される制度となっている。

林業政策上、『持続可能な森林』の管理形態を形成するに当たっては、地域的な受委託関係を進めた組織的かつ属地的な考え方での施業計画制度の運営は欠かせないが、一方でせっかく属人的な立場で『持続可能な森林の管理と経営』を目指そうとしている者まで、あえて経営形態を分断することとなっては、計画制度によって林業経営の活力がそがれるようなことにもなりかねない。

地域的対応の一方で、属人的な本来の林業経営者の視点に配慮した、計画制度へと見直すよう、改善を図っていただきたい。

ここに、会員から寄せられた現場からの意見を集約整理して、新森林施業計画制度の改善と運用の見直しにつき、提案内容を付して要望するものです。

 

要望 1. 『持続可能な森林経営』を目指す林業経営者に配慮した森林施業計画制度に。
『背景』

市町村・機能区分毎に、各々異なる森林施業計画の認定基準があるため、伐採量の規制などをされるのは、経営に支障が出るので、全山林で持続的に経営する計画であることを前提に、弾力的運用を考慮願いたい。(属人的森林経営の体制が軽視されている。)
『提案』

森林機能の視点からだけでなく、林業経営の視点を取り入れ、経営者の意志と意欲を反映出来る認定基準の考え方としていただきたい。
『植栽・伐採の箇所別計画』から『森林の機能を向上させることを前提に林業経営を活かす計画』に。
市町村・機能区分ごとに認定基準を適用するのではなく、属人的な経営山林全体について、各機能区分の認定基準に適合することを条件に、森林施業計画の認定を願いたい。


要望 2. 対象森林が複数の市町村にわたる場合は、都道府県知事、複数の都道府県にわたる場合は、農林水産大臣申請も認めて欲しい。

『背景』

複数の市町村、都道府県に山林を所有している所有者は、認定申請先が増え、申請事務が、煩雑・多量になった。

『提案』

少なくとも、同一県内で複数市町村に存する対象山林については、距離判定(隣接)、区域面積(30haの団地要件)に関係なく、都道府県知事宛認定請求も認めていただきたい。
要望 1.との関連を含め。


要望 3. 認定の請求提出書類の統一、マニュアル化による事務の簡素化を。

『背景』

市町村により、単独・個別の様式による追加資料が求められるところが多々ある。
これにより、多市町村にまたがる場合、市町村ごとに、資料内容も個々、ばらばらとなり、事務が、煩雑・多量になっている。円滑な施業計画業務が出来ない。

『提案』

書類・書式を、林野庁の指定する様式に統一する様に通達願いたい。
都道府県・市町村にて、それ以外の書類提出の義務付けはやめる様指導いただきたい。

要望 4. 単年度ごとの計画変更申請を5年間の計画枠内での処理に。
『背景』

現在のように経済変動が激しい時代に5ケ年間・年度ごとに施業地を地番まで指定することに無理がある。(特に民有林は林分単位が小さい)。
林業の経営実態に合わない規制によることが原因である。計画申請者も自治体の担当者も共に、この変更事務に多大な労力を費やしている。
(計画は実行可能なものでなければ何の意味もない。この一年先も読めない激動の時代に、5年先まで、小班単位での年毎の間伐を決めるというのは余りにも不備かつ困難な計画となりがちである。むしろ今日のような変化の激しい時代には、状況に応じて柔軟かつ臨機応変に実行することが林業経営である。)
『提案』

計画期間の5年間に実施する予定地(計画計上済み箇所)であれば、実施年度がずれても、変更申請を不要とされたい。(年度ごとには立木の伐採届、造林届は提出するので、所在地、樹種、林令、面積、材積などは明確である。)
年度ごとの規制・制限を解除し、5年間の総量にて、認定基準を判断することにされたい。特に間伐作業については、育林過程であることに鑑み、間伐材積は、参考に留め、間伐対象面積のみの規制とする。また、間伐の施業箇所変更については、年度ごとの施業計画の変更要件とせず、5年間通算で、プラスマイナス20%以内の達成が出来れば施業計画の変更を要しないこととして欲しい。
なお、地域的な機能区分を重視した森林計画としているのであるから、施業規制対象単位を、小班でなく、流域レベル(或いは主たる地形により区分されている林班単位)による総量規制にすることの方が妥当と言えるのではないでしょうか。
(間伐の趣旨は、数量を重きに置くものでなく、現実の林分構成を考慮して適切に行うものである。)


要望 5. 伐採及び伐採後の造林の重複届出の排除
『背景』

森林施業計画制度は、市町村の長の権限であり、保安林に係る伐採許可などの事務は都道府県知事の権限に属している(自然公園法では、国立公園は、環境大臣、国定公園は、都道府県知事の権限)ため、同じような届出を、何回も提出しなければならない。
『提案』

同一内容につき、複数の法が存在するが、届出事務を一元化出来る様、行政的な配慮・仕組みを検討願いたい。
(行政事務の電子化・オンライン化による、ワンストップ・サービス処理がなされることも、今日的な方向である。)


要望 6. 機能区分の変更は、事前に森林所有者等と事前協議を確実に。

『背景』

機能区分の変更は、市町村森林整備計画で確定して初めて、森林施業計画の変更手続きが始まるものである。しかしながら、実際には市町村からの連絡が無い事もあり、認定請求者として、いつ変更申請をすればよいかわからない。

『提案』

機能区分の変更は、当然その山林所有者には、前もって連絡し、決定後もその報告を実施願いたい。また、山林所有者の意向も十分考慮願い、山林所有者から、変更の希望があった場合には、その経営意志を尊重して、速やかに、市町村森林整備計画に反映していただきたい。

 

要望 7. 認定の請求受入事務処理レベルの向上確保を。
『背景』

認定請求書の提出先が、都道府県知事宛(農林水産大臣宛もあり)から市町村の長宛に移行したことに伴い、担当者の事務処理能力が極端に落ちた。
従来の都道府県担当職員には、林学出身者も専任で配置され、林業・林政についての知識を有していたのに比べ、各市町村の担当に林業技術者が不在する市町村が多い。(このため、行政関係者の森林施業に対する認識不足と知識不足=事務処理レベルの低下を来たしている。)

『提案』

林野庁としては、既に都道府県を通じた指導・援助をなされてきているが、さらに、早急に新たに、市町村担当者のレベル向上のための、教育・指導強化施策を実行されたい。
また、各自治体に、永続的な専任者を配置するに困難性が想像される場合、市町村をまたがる流域単位で、広域事業組織(例えば、流域活性化センターのように広域に林業を見る)に専門的知識を有し、地域の森林計画や施業計画事務に精通した人材を配置できる体制をつくっていただきたい。それは、地域における人材活用と民間活力の推進でもある。


以上

 


追って、
当協会の会員は、『森林・林業基本法』第9条(森林所有者等の責務)を理解し、持続的林業経営が危機に瀕している中でも、自然生態系に配慮しながら、保育、間伐などを適宜実行し、また、伐採跡地は、放置することなく、可及的速やかに植林など実施してその責務を追及しております。 (会員のほぼ全員が、森林施業計画制度(みなし認定を含む)に則り施業計画を樹立し認定を受けている。)

一方、同法第12条(森林の整備の推進)には、国の支援について規定されておりますように、森林所有者の意向を十分に考慮して頂くことによって、今後新森林施業計画制度がより一層『持続可能な森林の管理と経営』を促すことになるものと考えており、日本林業の発展に寄与し有効なものとして機能するよう、速やかに対応されることを期待いたします。

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