林経協の政策提言

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2. 直接支払い制度の導入

(1)外部効果の増大
森林の多面的な公益的機能は、林業の"外部効果"である。林業の生産物は木材であるが、木材の価格にはこの公益的価値に対する報酬は含まれていない。そのため、従来、政府は造林補助金等を出して林業を支援してきた。外部経済効果を補償する政府の役割である。しかし、木材価格の大幅下落によって、森林の有する価値のうち、市場取引によって償われる部分は小さくなり、加えて近年、CO2吸収という「新たな外部効果」の発生もあるので、市場で取引される価格には含まれない外部経済効果は著しく大きくなっている。それに対応して政府による「補償」を従来より増やさないと、持続可能な林業経営の維持は困難である。
治山治水やCO2吸収という公益的機能は、林業という産業活動があって初めて存在する。もし、林業活動を伴わずに、別の方法で治山治水やCO2吸収を行おうとすれば、膨大な財政コストが必要である。林業の外部効果として上述の公益的機能を享受することが、一番安上がりである。林業経営の支援を行うことは、国民が最も安いコストで公益的機能を享受できることを意味する。
 

(2)効果的な政策支援
森林の価値は以前にもまして高まっている。経営者の自助努力によっても克服できない部分は、その外部効果に対応して政府の政策支援があってしかるべきである。
ただし、先に見たように、従来の補助金制度は行き詰っている。現行の造林補助金のように、下刈りや間伐など個別の施業に対する助成では、林業経営者の創意工夫が生かされない傾向がある。長期にわたって安定的な投資と雇用体制が求められる林業経営に対する支援政策は、「持続可能な森林」を目指して取り組んでいる意欲ある林業者の経営を奨励する仕組みが望ましい。木材を伐採しなくても、森林育成としての林業だけでも将来に楽しみが持てるような持続的な助成制度へと仕組みを転換することが必要である。直接支払いによる所得補償の仕組みを導入することが、将来のわが国の持続可能な森林経営を確実なものとしよう。そのことは、国が目指す「循環型社会」の形成に貢献するところとなる。
経営体への直接所得補償は、伐採を前提とした個別施業への助成ではないから、長伐期施業への誘導策になる。このように、森林の育成管理にとって効果的となる直接支払いに転換すれば、長伐期施業が普及し、林業の未来は明るくなる。
直接所得補償制度は、下手に導入するとコストダウン努力が弛緩するが、現状の日本林業の場合、直接支払いは長伐期施業を誘導しコストダウンにつながる。また、森林の整備水準の向上にもつながる。つまり、林業部門への直接支払い制の導入はイノベーシヨンを誘発するのである。
また、現行の補助金体系は、その事務手続きや現地調査、補助行政に必要な人件費等に多額のコストが費やされており、直接支払い制への転換は行政にとっても林業経営にとってもローコスト化になる。行政の効率化に繋がる。
林業の再活性化(ルネッサンス)は、効果的な政策支援の導入によって、そう難しいものではない。

 

(3)直接支払いのスキーム
・ 直接支払いの対象
「持続可能な森林管理・経営の認定制度」を創設し、長伐期化や環境配慮を含め最低限守るべき森林整備ガイドラインを満たした施業計画を持つ意欲ある「認定事業体」に対して直接所得補償を行う。この認定制度は自主申請によるものとし、認定事業者は自ら「直接所得補償」の申請とその使途の説明責任を負うものとする。
認定対象者は、受託経営体である森林組合や自主的経営を行なう経営体とし、「持続可能な森林管理と経営」を確保するために必要な森林管理を行なっていることを要件とする。全国をいくつかの区域に分けた森林管理ガイドラインを作り、それに基づいて持続可能な林業経営の構築を目指す「長期の経営計画」を、第三者機関が審査を行ない、「認定事業体」を認定する。
小規模零細な森林所有者については、森林組合などによる森林の受託経営を促すとともに、管理と施業の集約化を図り、認定事業体としての活動を促進する。

 

・施業基準

直接所得補償が受けられる「認定事業体」となるためには、基礎的条件として現行の森林施業計画制度の認定を受けていることを前提に、持続可能な森林管理計画であることを基本として、長伐期化に誘導可能な施業計画、環境配慮を含め最低限守るべき森林整備水準を向上させる施業計画、等々の要件を満たした「施業基準」に沿って認定する。

 

(注)「施業基準」は、具体的には、イ)森林生態系の健全性および生産力の維持のために計画的な経営管理が行われていること、ロ)生物多様性や水土の保全など、環境管理方針が示されていること、ハ)地球温暖化対策に配慮した、とくに吸収源機能を持続的に増進する森林管理計画が成されていること、ニ)森林管理や効率的経営に不可欠な森林内の路網整備の計画が、土壌や水系保全に配慮されていること、ホ)地域における経済的・社会的・文化的側面に配慮されていること、ヘ)認定された森林から供給される林産物が循環型資源として有効に活用できること、等々の要件を含むものとする。

 

・直接支払いの額・支払方法
直接支払いの補償額の算定は、多くの森林育成費用を必要とする幼齢林・若齢林の人工林や人手をかけて育成する天然林、管理経費が主となる壮齢林など長期の経営計画の森林内容に応じたものとし、規模に応じて逓減する等の傾斜措置を講じる。
直接所得補償の財政需要は、林業再生の展望が見出せるものとする。これは今後の長伐期施業への移行や他の政策支援の実現によって、将来的には縮小する。
なお、この直接所得補償制度では対処できないが、補助による行政施策を講じる必要がある分野(流域内の共用林道の整備、災害復旧など)が厳然とあることは間違いなく、今後とも継続されるべきは言うまでもない。

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