林経協の政策提言

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1. 林業の未来は明るい

――新しいグリーン産業の創出――

 

(1)林業経営の危機(現状)

日本の林業経営は、地球温暖化対策という追い風と、国産材の価格低落(輸入材より安い)という逆風に直面している。
スギの山元立木価格は1990年の3分の1、丸太価格は2分の1に下落した。国産材の価格は長期低迷していたが、ついに1998年に内外逆転し、スギ製材品は輸入の米ツガ材より安くなり、それ以降、価格差は開く一途である。2003年現在、スギ柱材価格は1m3当たり4万2400円であるが、米ツガ材は5万600円である(表-1)。国産材需要が低迷していることに加え、1950年代後半から1960年代に一斉造林した木が成熟し伐採期が集中していることが一因となり、潜在的に供給過剰になっているからである。今後20年間、この供給圧力はつづき、国産材の価格は益々下落する可能性がある。国家的な要請による戦後の「過伐」と「一斉造林」が林業のリズムを壊した結果である。

 

表-1 木材価格の推移    (単位:円/m3)

西暦

山 元 立 木 価 格

  丸  太  価  格

製 材 品 価 格

スギヒノキスギ
中丸太

14~22cm
長3.65~4.0m
ヒノキ
中丸太
径1422cm

3.65~
4.0m
米ツガ
丸太
径30cm上

6.0m上
スギ正角
厚10.5cm
幅10.5cm
長3.0m
ヒノキ正角
厚10.5cm
幅10.5cm
長3.0m
米ツガ正角
厚10.5cm
幅10.5cm
長3.0m
198914,28232,38425,30065,80023,80057,400115,30051,700
199014,59533,60726,00067,60025,70059,700115,90055,800
199114,20633,15325,00065,50024,50058,500111,80054,500
199213,06030,31422,70059,00024,50058,400106,50054,200
199312,87430,10223,40059,00027,30063,100107,40060,900
199412,40229,17222,40057,90027,00061,500107,70059,800
199511,73027,60721,70053,40025,90056,700100,60057,100
199610,81025,46922,40053,80026,60057,400102,80055,900
199710,31324,60321,10049,10026,40058,100102,20058,200
19989,19121,43618,90043,10024,90047,40075,60052,700
19998,19119,84018,80042,40023,70048,20075,60051,200
20007,79419,29717,20040,20022,30047,30075,70050,100
20017,04718,65915,70037,80021,90044,70073,00049,000
20025,33215,57114,00031,50021,70042,00069,10049,100
20034,80114,29114,30031,60021,40042,40069,60050,600
西暦

山 元 立 木 価 格

スギヒノキ
198914,28232,384
199014,59533,607
199114,20633,153
199213,06030,314
199312,87430,102
199412,40229,172
199511,73027,607
199610,81025,469
199710,31324,603
19989,19121,436
19998,19119,840
20007,79419,297
20017,04718,659
20025,33215,571
20034,80114,291
西暦

  丸  太  価  格

スギ
中丸太

14~22cm
長3.65~4.0m
ヒノキ
中丸太
径1422cm

3.65~
4.0m
米ツガ
丸太
径30cm上

6.0m上
198925,30065,80023,800
199026,00067,60025,700
199125,00065,50024,500
199222,70059,00024,500
199323,40059,00027,300
199422,40057,90027,000
199521,70053,40025,900
199622,40053,80026,600
199721,10049,10026,400
199818,90043,10024,900
199918,80042,40023,700
200017,20040,20022,300
200115,70037,80021,900
200214,00031,50021,700
200314,30031,60021,400
西暦

製 材 品 価 格

スギ正角
厚10.5cm
幅10.5cm
長3.0m
ヒノキ正角
厚10.5cm
幅10.5cm
長3.0m
米ツガ正角
厚10.5cm
幅10.5cm
長3.0m
198957,400115,30051,700
199059,700115,90055,800
199158,500111,80054,500
199258,400106,50054,200
199363,100107,40060,900
199461,500107,70059,800
199556,700100,60057,100
199657,400102,80055,900
199758,100102,20058,200
199847,40075,60052,700
199948,20075,60051,200
200047,30075,70050,100
200144,70073,00049,000
200242,00069,10049,100
200342,40069,60050,600
資料:平成15年度林業白書

.

価格低下に伴い、造林投資の利回りは極度に悪化した。補助なしスギの利回りは早くも1995年にゼロになり、その後マイナス利回りが続いている。補助金つきの場合も、1995年には2.6%であったが、2000年には1%に低下し,このまま価格低下が続くと利回りゼロないしマイナス利回りに転落するのは必至である。(図-1参照)
図-1 造林投資の利回りの推移

.

図-2 人工林の齢級別面積
資料:平成15年度林業白書
 

(2)補助金行政の限界(放棄林地の増加)
国産材の価格が低下し、造林投資がゼロあるいはマイナス利回りになっているため、多くの林業家は長期投資である林業の将来展望が見いだせず、経営を放棄する例が増えている。日本の森林の6割を占める私有林経営は壊滅的状況にあるといえよう。実際、林業経営の将来への期待が悪化し、植林する人はいなくなり、伐採後放棄林が増えている。林野庁の公表データによると、伐採後放棄林は2003年3月末現在、2万5000haに及ぶ(これは過小推計と思われる。この数値を相当に上回るというのが現場の林業者の実態認識である)。木材価格はまだまだ低落して行きそうなので、この伐採後放棄林は今後加速的に増えていく見通しである。
つまり、造林補助金制度は手厚く整備されているものの、その制度を利用する人が減りつつあるのである。いまの補助金で林業と森林を守ることは出来なくなっているのである。国産材の価格低落の下、いまの補助金行政は行き詰っているといえよう。

 

(3)長伐期施業による高収益林業の追求
森林は「時間蓄蔵財」である。ウイスキーのモルトは樫樽の中で寝かし熟成させる時間が長いほど、価値が高まる。ワインもヴィンテージの古いほど値打ちものだ。このように、時間の蓄積が価値を増やす財がある。
森林も同じである。スギ、ヒノキの森林は40年生を過ぎると、もう育林の手間は要らない。その後は自然の風雪が木を育て価値を高める。木は成長を続けるので、時間が経つにつれて太くなり、蓄積が増える。1ha当たり木材量は、スギの場合、標準的には立木蓄積で、40年生の森林で370m3、70年生で540m3、100年生で650m3に蓄積が増える。加えて、長伐期化にともない、材質が安定し、強い材質や曲がりの少ない木材となり、質の高い木材が生産できる。
(注、長伐期とは、木材の年間成長量が最大となる林齢の1.5-2.0倍以上〔概ねスギ70年生以上、ヒノキ80年生以上〕の林齢で伐採する施業)
一方、1ha当たりの伐採・搬出コストは大差ないので、長伐期化に伴い木材1m3当たりコストは低下する。表-2に示すように、1m3当たりの伐採・搬出コストは、40年生は10,300円、70年生は7,100円と3割も低下する。このように、長伐期施業は、植林・育林負担、伐採・搬出コストが下がる。持続可能な経営としての林業のトータルコストの低減効果が大きい。その上、質の高い木材が生産できる。つまり、付加価値を高める。スギは現状のような40年伐期では収穫コストもまかなえない赤字であるが、70年生は1ha当たり154万円の荒利益がでる。長伐期化こそ持続可能な森林経営への道筋といえよう。

 

表-2 長伐期化による蓄積・価格・コストの変化(当研究会試算)

 ス  ギ
40年生70年生100年生
丸太材積(m3/ha)240405510
販売単価(千円/m3)12.613.914.9
ha当たり生産額(千円)3,0245,6307,600
伐採、造材コスト(円/m3)10,3007,1004,900
市場への搬出コスト(円/m3)3,0003,0003,000
伐採、造材、搬出経費(千円/ha)3,1924,0914,029
荒利益(千円/ha)▲1671,5393,571
(参考)育林費(万円/ha)265 ----
 
 ヒ  ノ  キ
50年生80年生100年生
丸太材積(m3/ha)195285345
販売単価(千円/m3)25.227.027.9
ha当たり生産額(千円)4,9147,6959,625
伐採、造材コスト(円/m3)11,7008,6007,400
市場への搬出コスト(円/m3)3,0003,0003,000
伐採、造材、搬出経費(千円/ha)2,8663,3063,588
荒利益(千円/ha)2,0484,3896,037
(参考)育林費(万円/ha)296 ----
ス  ギ
40年生70年生100年生
丸太材積(m3/ha)
240405510
販売単価(千円/m3)
12.613.914.9
ha当たり生産額(千円)
3,0245,6307,600
 伐採、造材コスト(円/m3)
10,3007,1004,900
 市場への搬出コスト(円/m3)
3,0003,0003,000
 伐採、造材、搬出経費(千円/ha)
3,1924,0914,029
 荒利益(千円/ha)
▲1671,5393,571
 (参考)育林費(万円/ha)
265 ----
 
ヒ  ノ  キ
50年生80年生100年生
丸太材積(m3/ha)
195285345
 販売単価(千円/m3)
25.227.027.9
 ha当たり生産額(千円)
4,9147,6959,625
 伐採、造材コスト(円/m3)
11,7008,6007,400
 市場への搬出コスト(円/m3)
3,0003,0003,000
 伐採、造材、搬出経費(千円/ha)
2,8663,3063,588
 荒利益(千円/ha)
2,0484,3896,037
 (参考)育林費(万円/ha)
296 ----
          (注) 丸太材積は天城地方収穫予想表と国税庁標準立木材積表を参考として算出した。
              価格は主として農林水産省統計による16年4月価格を採用した。
              伐採コストは神崎康一氏の「径級による生産コストの相違」を参考として算出した。
              育林費は、平成13年度林家経済調査による。
 

さらに重要なことは、国産材の価格低落を抑制する効果を持とう。近年の木材価格の低落は、先述したように、1960年代に一斉造林した資源が伐採期を迎えているため、供給圧力が強まっていることが一因であるが、長伐期化すれば供給圧力を緩和し、価格の低落傾向に歯止めがかかるのではないか。長伐期施業は林業経営の未来を明るくしよう。
このほか、適切に管理された長伐期林は、林内に広葉樹や豊富に生えた下草が林内の生物多様性を確保し、環境貢献効果も高い。長伐期化を導く過程での小面積区画伐や群状伐採あるいは抜き伐り(択伐)の繰り返しによって、例えば100年生の木、60年生の木、20年生の木と、多種類の大きさの異なる樹木が混在する複層林に移行することも出来る。山を丸裸にする一斉皆伐に比べ、自然環境・生態系への負荷は小さい。

 

(4)CO2吸収源としての森林の価値増大
国民の価値観の変化により、森林は治山・治水効果、農山村の自然景観維持など、従来からの公益的機能への評価が高まっている。しかし、それだけではなく、近年は、地球温暖化対策が重要な課題になってきたため、森林のCO2吸収機能が注目され、新たな価値を創造している。従来からの価値の上昇、プラス新たな価値の発生である。森林の価値は以前にも増して高まっている。
林業は、追い風が吹いているといえよう。CO2吸収源は新たなビジネスチャンスになる。CO2吸収源を経済的に評価する制度と市場があれば(クレジット化)、外部効果を内部化できる。また、上述のような森林の価値の増大は「外部経済効果」の増大であるから、林業に対する政府支援も拡大が期待できる。

 

(5)林業ルネッサンス計画
――林業経営の自立化をめざして


① 新しいグリーン産業の創出
林業は、長伐期施業へ移行することで、持続可能な林業経営になれる。また、環境貢献効果も一段と高まる。現状の危機的状況を切り抜け、収益を高め、また国民の期待する公益的機能を発揮させるため、官民一体となって長伐期施業を目指して取り組むのが望ましい。
林業の新しい時代が展望できる。第1に、長伐期施業への移行はコストダウンと木材価格低落への歯止め効果によって林業の高付加価値化を導く。第2に、CO2吸収源のクレジット化(外部効果の内部化)は新しいビジネスチャンスの発生である。第3に、環境貢献効果の高い山林となる。以上の要素が重なって、将来の林業は一変するであろう。林業は単なる木材供給産業ではなく、新しいグリーン産業になることを目指すべきである。

 

②林業は高収益・高成長産業になる
林業は成長産業になれる。第1に、潜在的には巨大な市場がある。国内の木材需要は年間9000万m3ある。その大半は外材によって供給され、国産材は2割を占めるに過ぎない。日本の森林は戦後の過伐を経て1950年代後半から一斉造林されたものであるため、10年前までは国内資源は未成熟であり、外材に依存せざるをえない事情もあった。しかし、一斉造林した森林が成熟し伐採期に近づいた現在、これからは外材のシェアーを食うことで国産材の供給を増やすことが出来る。
資源の蓄積は十分あり、また、価格競争力も成熟化とともに備わりつつある。今後は流通改革を進め、国産材を使いやすい材にすることで、国産材を成長産業にしなければならない。
第2に、これまで林業経営が苦しかったのは、林齢構成が若く、伐る木がなく、一方で保育のための費用がかかっていたからである。経営が赤字になるのは当然である。しかし、一斉造林の伐採期が近づいた今、保育コストは減少し、他方、生産できる資源があるわけだから、経営の収支構造は根本的に変わってくる。しかも、長伐期施業に移行すれば、さらにコストは下がり、付加価値は高くなる。
20年後、日本の林業は高収益・成長産業になろう。需要の成長と収益の向上が期待できる。それまでの期間をどう食いつないでいくかである。第1に、林業家自身の創意工夫、自助努力が必要である。第2に、公益的機能の増大に対応した政府の効果的な支援が望まれる。長伐期施業への誘導策になる効果的な政策支援があれば、将来、林業は自立できる。林業の再活性化(ルネッサンス)は、そう難しいものではない。

 

③林業経営者の自助努力
林業再生には林業経営者自身の経営努力が必要である。
(イ) 消費者への正確な情報提示
川下の消費者は清浄な空気や豊かな水を介して、上流域の森林保全への理解を深めてきた。また家づくりに際しても、地域の木材利用に目を向ける消費者が増えてきた。しかし消費者の意向に応じた国産材を提供する仕組みは弱い。
身近にはシックハウス症候群をはじめとする多くの化学物質による健康被害
の発生を受け、自然・環境・安全への関心を高めつつある。実際、国産の無垢材住宅が伸びている。国産材の正確な情報提供は、環境保全への協力意識や健康住宅への意識が高まっている今、市民の消費行動を激変させる可能性がある。このため、消費者が木材製品の生産地や樹種などを知ることができるトレーサビリティの仕組みを創る。

 

(ロ)国産材ユーザーのための流通改革
外材は在庫量をはじめ木材供給情報のキーステーシヨン(木材商社等)があり、利
用しやすい。これに対し、国産材にはその機能が見当たらない。
国産材は丸太の生産現場をはじめ、製材・加工工場が小規模である。そのため、ユーザーである工務店や設計事務所が的確にその情報を把握しづらい状況にある。国産材業界はその製品の情報をまとめて常時提供できる体制を整備する必要がある。
それには例えば、工務店や設計事務所との予約販売の導入促進や住宅部材における加工開発・利用推進について交流を深める仕組みを育てなければならない。

 

(ハ)コストダウン
コストダウン効果の大きい長伐期施業への移行のほか、小規模所有森林の受委託による管理・施業の集約化で一層のコストダウンがはかれる。また、環境貢献と木材生産の両立に向けた合理的な路網配置、低廉なコストでの育林などの新しい森林管理技術の開発に挑まなければならない。林業経営者は経営マインドを高める必要がある。

 

(ニ)木材以外の収入確保
特に小規模林業家は、非木材林産物の生産とエコツーリズムの拠点など森林経営のサービス化を図るなど、木を伐ることなくして経営を維持することで長伐期施業への道を工夫し、林業の高収益・高成長産業の時代の到来を待つべきである。ここでも経営者としての才覚が発揮されなければならない。

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