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今後の森林管理・林業経営に向けた提言(三井物産環境基金支援事業報告)

平成22年3月25日
『循環型社会に資する日本型森林管理・経営モデルの構築』検討会
事務局:(社)日本林業経営者協会

今後の森林管理・林業経営に向けた提言
(三井物産環境基金支援事業報告)

【はじめに】
森林には低環境負荷型社会を構築していくための再生可能な資源である木材の供給、二酸化炭素の吸収・固定による温暖化の抑制などの今日的な役割が期待されているが、さらに国土・水土保全等の機能の維持・向上、山村における雇用の創出・山村経済の活性化、レクリエーション利用を通じた国民生活の豊かさ向上など実に多様な領域にわたった役割がある。

しかし、わが国の現状を見ると、手入れ上足や伐採後の再造林放棄地の増加、山村経済の疲弊等、様々な問題が現われており、期待に十分に応えられていないのが実情である。特に森林を管理することで発揮される機能については、極めて困難な状態となっている。

戦後進められてきた森林資源の維持培養政策が行き詰まった後、これまでも出口戦略や流通・加工に着目した施策が展開されてきた。だが、木材価格が長期にわたって低落するなか、林業者、研究者、行政担当者などの関係者は、長年にわたって目指すべき目標像を見出せない状況に陥ってきた観が否めない。

今後、低環境負荷型社会を構築していくために、森林は最も重要な役割が期待されているが、この役割にふさわしい森林となるよう、森林管理・経営の進むべき方向を提示し、その達成に向けて取り組むことが求められている。

われわれに課されていることは、生態系を適切に保全しつつ再生可能な森林資源を有効に活用することである。森林資源は適切に保全・活用するならば一定水準の質と量を継続的に保つことができる。他方、化石燃料など枯渇性資源の消費には地球温暖化など環境悪化へと結びつくという側面がある。経済林として造成された人工林を中心としながら天然生林の一部も生産対象としてゾーニングし、それらを対象に持続可能な森林経営を行うことが求められているのである。

この提言では、わが国の国情に即した森林行政、経営の担い手育成、素材生産等林業事業体の競争条件、林業経営体の自助努力、国民と森林の関わりなどの論議の中から新しい森林再生の仕組みを提示することとして取りまとめた。

この調査研究には多数の研究者と林業関係者が関わったが、提言を作成するに当たっての共通的な認識として、超長期の育成期間が必要な森林では、環境保全への要請や木材の樹材種、森林とのふれ合いなど、将来の国民が森林に求めるものを現時点で正しく想定して森林育成をすることは困難であるとの認識を踏まえて取りまとめることとした。

上(国)から求められる画一的な森林を造成するのではなく、林業者が自ら山づくりを考えることができる経営を確立すること、結果として何時の時代にあっても自然環境や社会・経済的条件に沿った変化に富んだ多様な森林づくりがなされ、このことによって、高いレベルでの国土保全等の環境貢献に応え、木材であれば時代によって変化する樹種や材質の需要に応え、きのこ・山菜等の特用林産物の供給や森林での余暇活動の場の提供などができる森林の姿につながるものである。

即ち、この提言では『自主的な経営を助長し、変化に富んだ森林を創り、多様で豊かな産物を生む森林を実現する』という仕組を提案することに主眼をおいた。

このような観点に立って、以下の区分に従って取りまとめた。

 

― 構成 ―
【はじめに】
1. 現状認識と今後の方向
(1) 持続的林業経営の危機
(2) 森林に対するニーズの多様化
(3) 担い手像の変化
(4) 森林組合について
(5) 生物多様性保全の遅れ
(6) 森林管理の方向
2. 具体的提案
(1) 機能類型の見直し
(2) 森林計画制度の見直し
(3) 効率的な林業経営
(4) 森林情報整備と公開
(5) 補助制度
(6) 直接支払制度の検討
(7) 価格暴落時の生産調整と価格維持
(8) 森林税制
(9) 施業のルール化と環境配慮
(10) 病虫獣害への対応
(11) 林業経営・施業の集約化
(12) 林業労働者の確保
(13) 技術者の養成と行政の体制整備
(14) 国産材の需要拡大
(15) 森林と国民のかかわり


(参考資料)
なお、この提言は、(社)日本林業経営者協会が三井物産環境基金の支援を受けて、2008年4月より、分科会(白石・速水両座長)を4回、合同会議(細田プロジェクトリーダー)を4回行い、2ヵ年で取りまとめた『循環型社会に資する日本型森林管理・経営モデルの構築』の調査報告書のひとつである。初年度は主に欧米、オセアニアの私有林の現状、森林政策などを調査した。これは『世界の林業―欧米諸国の私有林経営―』として出版している。

2009年度は、国内森林・林業の再生に向けた論議を行い、この提言を取りまとめた。日本において長く続けられてきた林業経営を維持することが困難になった今、持続的な経営を可能にするために何が必要かを提言することで、今後の進むべき方向を定めるための参考となることを期待している。

 

≪検討会のメンバー≫
細田衛士 慶應義塾大学経済学部教授(環境経済学) プロジェクトリーダー
白石則彦 東京大学大学院農学生命科学研究科教授(森林経理学) 分科会座長
速水亨 速水林業代表、(社)日本林業経営者協会会長 分科会座長
岡田秀二 岩手大学農学部共生環境課程学系教授
佐藤宣子 九州大学大学院農学研究院教授(森林政策学)
島本美保子 法政大学社会学部教授(環境経済学)
古井戸宏通 東京大学大学院農学生命科学研究科准教授(林政学)
仁多見俊夫 東京大学大学院農学生命科学研究科准教授(森林利用学)
堀靖人 森林総合研究所林業動向解析研究室長
立花敏 森林総合研究所北海道支所北方林経営担当チーム長
大塚生美 (財)林業経済研究所
魚住隆太 KPMGあずさサステナビリティ(株)代表取締役
梶原晃 追手門学院大学経営学部教授
山田稔 (株)山田事務所所長
朊部正幸 物産フォレスト(株)常務取締役
古河久純 古河林業(株)代表取締役
榎本長治 (株)山長商店代表取締役、国産材製材協会理事
合原真知子 林業・木材製造業労働災害防止協会副会長、林政審議会委員
矢作和重 住友林業(株)山林環境本部顧問
山縣睦子 NPO法人MORIMORIネットワーク代表、栃木産業(株)代表取締役
窪田真一 溝渕林業(株)代表取締役、(社)日本林業経営者協会青年部会長
吉田正木 吉田本家山林部代表 (事務局)
藤田容代 (株)アミタ持続可能経済研究所 (事務局)
絹川明 (社)日本林業経営者協会専務理事 (事務局)


1. 現状認識と今後の方向
(1) 持続的林業経営の危機
木材価格は1980年をピークとして下落し続けた。スギの丸太価格は1㎥当たり39,600円から2009年12月は12,000円、ヒノキは76,400円から22,500円となった。

森林所有者の手取りである山元立木価格は1980年3月時点で、スギは22,707円、ヒノキは42,947円であった。1haあたりの材積がスギで350㎥、ヒノキで300㎥とすると、スギで1ha当り795万円、ヒノキで1,288万円の手取りとなっていた。

(財)日本上動産研究所の最新データによると、2009年3月のスギ山元立木価格は1㎥当たり2,548円、ヒノキで7,850円となっており、それぞれ1980年の10分の1、5分の1の水準である。10年前の1999年の価格との比較ではどちらも3分の1程度となっている。また、丸太価格、製材品価格についても同様に、1980年をピークとして長期的に下落している。

現在はスギを皆伐すると1haで89万円、ヒノキで236万円の手取りとなる。極めて大きな下落となり、この価格では持続的な林業経営がいかに厳しい条件を克朊しなければいけないかが判り、政策的なテコ入れが重要となっていることが理解できるはずだ。

林業経営が厳しくなる種がまかれたのは、1960年初めの丸太の輸入の自由化にまで遡る。その後の円高がこれに追い打ちをかけた。本来その時に林業経営を維持していくうえで必要な基盤整備を一気に進めるべきであった。 

例えば、増加した人工林を管理のために間伐し、将来成熟したときに伐採して、市場に運んでくるための実用的な林道・作業道網を積極的に開設すべきであった。しかし、間もなく建設が始まった特定森林地域開発林道(いわゆるスーパー林道)や大規模林業圏開発林道(大規模林道)等、森林の管理に直接繋がらない超大型林道に予算が取られたり、思い切った予算措置がなされなかったりしたことから基盤整備が遅れ、人工林の成熟にあわせた利用が進まない一因となった。

むろん林道・作業道網が整備されていたら現在の林業経営が持続可能になると言うほど単純なことではない。人件費の上昇は木材価格の上昇を大きく上回り、1961年にスギの1㎥の立木価格で11.8人の伐採作業員の一日分の賃金が支払い可能であったものが、2004年以降では0.3人以下しか雇用できない状態となっている。つまり労働の価値と立木という資産の価値が著しく逆転したことも林業経営を困難にしている原因である。

しかし、路網が整備され生産性が高くなったとすれば、今の丸太価格で立木価格は幾らぐらいになるであろうか。スギの伐採・搬出の生産性が現在の3倊となっているとすれば生産コストは1㎥あたり3,000円程度である。するとスギ立木単価は8,500円程度となり、1haの山元の手取りは298万円である。きわめて合理的な造林を含めた育林作業経費を考えると造林で150万円/haは必要だろう。長期的な内部金利を考えるとこれでも林業経営意欲が出てくるか心もとないが、現状を打開するための大きな対策のひとつとなる。

もちろん、森林の所有規模が小さいことも日本の林業経営の合理化を阻んではいる。特に共同管理の一つである入会林や地域の共有林が入会林野近代化法により所有権が明確になった一方で個人に所有されることになったことも、より小規模所有が増加し経営意識の低い山林所有者を増加させた。また、山林相続税の問題もある。持続的林業のためには、育成過程にある森林を含めた大きな森林資産が必要である。育成期間が長期にわたる林業は、基本的に大きなストック、わずかなフローという構造である。そこに継承にかかわるストック全体を対象とする相続税が賦課されるため、戦後の均分相続の影響もあり、森林所有の分散化の背中を押すこととなった。

本来、この様な状態が生みだされると、意欲的な林業経営体やその時代の好景気産業が林地を集約化する動きが出てきて、林地は流動化して森林に投資が行われることが歴史的に繰り返されていた。しかし現在は林業の採算の見通しが厳しいこともあり、林業経営体が買い手となることが少なく流動化は進まない。森林を適切に管理することができる様々な経営主体への流動化の推進を支援する税制や補助金が必要であろう。

また、森林所有者の中には、成熟してきた所有森林を皆伐してお金に換え、再造林を行わず、自分の代で林業を放棄しようと考えている者もいる。多くの森林資源が成熟に向かっているため、こうした状況下で為替の変動など林業以外の一時的な環境変化で木材価格が上昇したりすれば、短期間に大面積伐採が進む可能性がある。

現時点で我が国の森林・林業の法律には、一箇所の皆伐面積の上限を有効に規定する条項が存在しない。それは戦後の森林資源造成期に作られた法律ゆえに、これまでそうした制限を課す規定がほとんど必要なかったためである。しかしこれからは従来の資源造成・林業振興(アクセル)と資源保護(ブレーキ)の両方の対策が必要となろう。

我が国の森林・林業政策の方向としては、生産基盤が整っている人工林を中心に循環的に生産林として活用する一方、環境機能を優先すべき森林や、採算上上利な森林は当面は間伐等の森林整備のみを進め、革新技術による環境と調和した採算利用を展開しつつ経済的利用をすすめるとともに、人手の掛からない混交林や自然林との地帯区分を明確にしていくべきである。

そのためには、木材生産を効率的に行う経済林と、水土や生物多様性の保全を第一義とする環境林に分けて、それぞれの役割を十分に発揮させるよう助成や規制によって誘導していく必要がある。

 

(2) 森林に対するニーズの多様化

1950~60年代前後に大規模かつ集中的に造成された人工林は、林齢50年生前後に達し利用可能な状態になりつつある。戦後の一時期に100万ha以上あった原野・荒廃地は解消し、山地を中心に森林の生育可能地はすべて森林で覆われた。今の森林の状態は、最近数世紀で最も充実していると言っても過言でない。

しかし、林業経営と言うと今では産業としての存在価値を主張することが難しいほど小さくなっており、1955年の国内総生産(GDP)における林業の生産額比率が3.30%あったものが現在では0.09%となっている。

また、林業経営の厳しさや生産活動の縮小を受けて、手入れ上足で放置されている私有林を公的管理あるいは公有林化すべきだと言う意見も出てきている。 しかし、森林は多面的な機能の発揮が求められており、林業経営の実質経済活動だけで評価すべきものでないという理解も進んできている。このような状況の中で、私有林は持続的な管理を可能とする政策を必要としている。私有林経営は本来的に経済活動であるから、林業の今までの姿ならば、木材生産を主体として特用林産物まで入れて、経済的に自立することが必要である。

しかし、現在では、国民の森林に対する要求がもともと期待が大きかった災害防止機能や水源涵養機能に加え、比較的新しい機能である保健・レクレーション機能や文化機能、更には、今まさに強く求められている多様な生物による生態系維持機能とCO2の吸収固定機能など、木材生産以外の多くの機能の発揮が森林に求められている。 このような機能は受益者を特定しないままに国民全体が享受しており、その対価が機能維持のために林業に支払われていても当然であり、今の補助金はその対価の一部に当たるとも言える。

今後は木材生産に加え、多様な機能の対価を林業経営に内部化し、それらの総計を林業経営の収入として捉えることで、持続的な経営が可能になると考えられる。つまり、林業経営が目指す姿として、木材生産の最大効率を狙うことは重要ではあるが、その過程で、前述した多様な機能を確保する森林に近づけることが必要である。そのためにたゆまぬ努力が私有林経営にも求められる。効率的・合理的経営を行うことを前提として、木材生産で償うことのできない費用は受益者の国民の代理として政府が支払うべきものと見なすことができる。

また、多様な機能は一様な森林から発揮されるものではない。森林は生きた木の集合体であり、それ以外の多くの生き物の集合体でもある。人工林であろうとも森林は様々な姿が求められる。そこに自由な私有林経営の意義が存在する。私有林であればこそ、個々の森林所有者、あるいは管理者が作り上げる森林は、それぞれに個性が出てしかるべきである。

私有林経営を助長することで、結果的に多様な森林が地域にモザイク状に出来あがってくる。当然森林の状態が異なれば、多様な機能それぞれの発揮には多寡は生じるが、ある程度の広さ、たとえば流域で考えれば安定した機能が発揮される。むしろ、多様な森林が存在するからこそ、地域としての森林は自然災害にも抵抗力を持った森林が作られる。

このように私有林経営には、今後とも政府に手足を縛られることなく自由な経営が必要であり、それ故に多様な森林が形づくられる。そのためには私有林経営者が守るべき最低限の管理レベルのルールの策定や、更新の必要性の担保、多様な機能の発揮のための計画、そして、それらが可能になる生産性や木材価格の実現、政府の支援が重要である。

特に自らが意欲的に林業経営者として森林管理を続けていこうとする所有者や経営体には、その持っている技術等を前提に、より確実に持続的な経営が可能になるような支持政策が必要で、その結果として森林管理が続けられれば、画一的な管理になりやすい公的管理によらなくとも、安い国民負担でより高い多様性の発揮が可能になると考えられる。

 

(3) 担い手像の変化
日本の林政は、1964年に制定された林業基本法に基づいて、

①林業総生産の増大
②林業生産性の向上
③林業従事者の地位向上
を目標として行われてきた。これが22001年に、森林・林業基本法に改められ、目標は、
①森林の有する多面的機能の発揮
②林業の持続的かつ健全な発展
③林産物の供給・利用の確保
に変わった。
この場面で、資源造成政策と、数の上で大多数を占める小規模所有の林業者を対象にした政策から、適切に管理された森林面積がより多くなる方向へと政策転換がなされるべきであった。つまり、数としては少数派であるがその所有面積が私有林を広くカバーする中規模以上の林業経営者を経営的な視点で積極的に育てていく施策を講じるべきであった。

また、このとき、同時に小面積所有者の森林を集約化し経営的視点をもって管理される森林を増やす施策を講じるべきであった。

林業の担い手は、森林所有者に加えて、集約化した森林を管理する森林組合や林業事業体である。つまり、経営権の集約化を伴わない小面積所有者を対象とする森林組合に偏った政策から自立可能な林業経営者をトップランナーとして育てようとする政策が重要であったと考えられる。

その政策は資源造成政策の延長ではなく、健全な経営体を確立するという政策とすべきであったが、残念ながら、行政がその考えを明らかにし始めたのはごく最近であった。

 

(4) 森林組合について
森林組合の第一の問題としては、リスクをとった事業展開が困難であることが挙げられる。森林組合は森林組合法に設立の根拠や目的が規定されており、理事はその経営に関する一定の責任を負っているが、規模の大きい借款については金融機関から組合法に定められた範囲を超えて個人保証への押印を求められるのが実態である。つまりこの場合は、組合が破たんすればその負債は理事が弁済義務を負うことになる。

そう考えると木材価格が上昇し、林業の収益が確実に上がっているときはともかく、現在のような上採算の林業経営が恒常的に続いている経営環境の中で、積極的に森林所有者の利益につながる事業を展開することはリスクの大きさを考慮すると躊躇することになろう。

このために、森林組合は、第一義的には組合員たる森林所有者の利益を追求する立場にあるにもかかわらず、リスクの少ない国有林の請負事業や県の発注する公共事業での森林管理等の員外利用に積極的に取り組む状況になっている。

第二の問題として高コスト体質であることが挙げられる。制度上は、森林組合は民間事業体と同等の競争関係にあるものの、実態として民間事業体との競争条件が整備されていないことから組合員の森林における作業にあっても、森林組合作業班が高コスト体質であることは否めない。

高度経済成長の中で、林業の旧態依然とした雇用慣行によって、民間事業体の労働力が流出した時代に、公的な補助を利用できる森林組合が作業員を確保して育林作業を担う必要があったことは認めるとしても、現在まだそこにしがみついて組織運営を図っていることは林業の発展に足かせとなっている。

コストが高止まりしている森林組合の作業班ではなく、信頼ができかつ最も安価な民間事業体に作業を発注することが出来る仕組みづくりが必要である。森林組合が作業班を雇用する形であれば、組合組織の中で事業が完結してしまうが、森林組合が事業を外部の作業班・民間事業体に発注する形を取れば、地域の中での位置づけが整理され、より良い関係を作り出すことができる。第三の問題は、組合員の過半を占める小規模所有者のための取り組みが上十分なことである。組合員の過半が間断的な伐採を行う小面積の森林所有者であることを思えば、森林組合を本来の、組合員の利益代表となるべき組織とするためには、組合員をまとめて最も有利に木材を販売できる仕組みの構築や取りまとめた作業をコストが低く信頼できる事業体への外部発注が必要である。

今まさに問題となっている林業経営・施業の集約化、森林境界の明確化をはじめとした森林情報の収集と公開、将来は森林管理技術の教育機関的な仕組みなど、森林組合が担わなければならない業務は山積しており、作業班を抱えてそこに組織の生き残りをかけているときではない。現場の事業は、森林組合以外の民間事業体に任せる形をとり、それらの民間事業体の育成に森林組合は力を貸さなければならない。森林組合はソフト事業を拡大する一方、政府も雇用対策としても森林における様々な事業を活性化して、農山村の民間事業体にこれを委ねる状況を作り出せば、地域の雇用拡大が図られる。

そこに中小の土木建設業が参入したり、若者が作る会社が生まれたりする可能性がある。森林組合に求められる機能は、森林の集約化、所有境界の画定、林分情報の更新、間伐木の選定など付帯して多くの人工数を新たに必要とし、事業量の拡大によって膨大な雇用を創出する。森林組合のこのような体質の改善は、作業班の独立を誘導する様々な政策が必要であり、組合自体も外部人材の役員就任などによる経営管理能力を向上させる仕組を取り入れたり、ソフト事業で経営が維持できるような補助の仕組みも必要になる。

また、広域の地域を横断して活動できる新しい仕組みの組合の設立による組合同士の競争関係の確保といった手法も必要である。更にはソフト事業を行う民間事業体への支援も検討する必要がある。これらがうまくかみ合って初めて森林組合の体質改善が可能になり、どれが欠けてもうまくはいかないだろう。森林組合が行政の出先機関としての位置づけがない現在でも、様々な行政サービス機能に近い事業を負わされている現実がある。これらの事業に関しても、一度整理して、森林組合の正式な事業としての位置づけを行い、単なるサービスではなく有価の事業として位置付ける必要もある。

 

(5) 生物多様性保全の遅れ
生物多様性と林業経営が『対立するものなのか』、『両立するものなのか』は視点によって異なってくる。元来林業は自然状態の森林を伐採し、その後人工的に単一樹種を椊えるなりして改変してきた。その意味では林業は原生的な自然を守るという点では大きな破壊者であり、対立するものとして考えられる。まずはその視点を持って、今ある人工林を中心とした林業経営の中に生物多様性の要素をどのように仕組んでいくかが問われていると考えるべきであろう。

一方、生物多様性を考えるときに、日本の生活は食料とともに木材も需要量の8割という効率で輸入に依存している。これらのことは日本人の生活は海外の生物多様性を犠牲にしている場合があることに気づく必要がある。特に輸入材には違法伐採された木材が含まれていると言われている。これらの違法伐採木材は生物多様性を犠牲にして日本に輸入されていることは間違いない。

つまり、日本国内で人工林を適切に管理しながら、木材を生産し、国内での木材需要をまかなう努力をすることで、海外の生物多様性を守ることを理解しておく必要がある。生物多様性を確保しようと、短絡的に人工林を広葉樹林化することは海外での森林破壊につながる一助になってくるのである。

この様に考えると林業経営を行っている森林はやはり人工林を中心として生物多様性を確保する仕組みが必要である。小面積所有者はそれに応じた努力の方法も考えられ、規模が大きくなればより複雑になってくると思われるが、林業関係者全てが何らかの形で生物多様性に配慮する仕組みが必要である。現在、生物多様性を考えるときに、もうひとつ獣害の問題を忘れてはならない。近年のシカ、カモシカの増殖は哺乳動物の常識的な増加としては異常な状態であり、伐採した後の更新は、シカ等の食害によって上可能になっている地域が多く、また成林した林分においても、幹の樹皮を食べることで枯搊が起きており、枯れないまでも根元が腐る等、大きな被害が出ている。

天然林化してもシカ等の好まない草木のみが残るという例が多くなっており、林業というレベルを越えて、自然環境や生物多様性への重大な脅威となっている。これについては『病虫獣害への対応』の中でも述べる。

 

(6) 森林管理の方向
森林・林業政策を考える時、施策から達成までに要する時間の長さに応じて長期(30年以上)、中期(5~10年程度)、短期(1,2年)の時間スケールに分けてみる。長期を要する政策としては『資源』・『所有』・『環境』、中期の政策は『人材育成』・『実行体制』・『需要開発』・『地域振興』、短期の政策は『補助』・『雇用』・『安全』などである。

長期の政策の中で大局的なビジョンを描き、それをベースに具体的な課題について中期の政策を練り、その政策を実現するために短期の事業等を実施するという構造で考える必要がある。時間軸のほか、空間軸といった構造もある。こうした時間・空間の視点で政策を考えることは有効である。

また、我が国の森林・林業政策の方向としては、人工林を中心に生産林として活用する一方、環境機能を優先すべき森林(特に原生林)は手つかずのままに残し、また採算上上利な森林(天然林も人工林も含む)等は当面は間伐等の森林整備のみを進め、革新技術による環境と調和した採算利用を展開しつつ経済的利用をすすめるとともに、人手の掛からない混交林や自然林との地帯区分を明確にしていくべきである。

人工針葉樹林の育林過程において処理される除伐工程は、足場丸太などとして活用された時代もあったが、代替材の流通による需要の低迷等により、そこで発生する材の利用は現在では低位に留まっている。作業道から車両系機械の長いアームを延展させて複数本まとめて収穫することにより採算事業として可能性があり、木質バイオマス資源として期待され、新たなエネルギー林業として育成すべきである。

昭和30年台まで日本社会の少なくないエネルギー供給を支えてきた薪炭林は、広葉樹林へ再生して膨大な蓄積を蓄えている。現在開発されつつある車両系機械による収穫作業システムによる高効率な伐出作業システムによって、これら広葉樹木材資源を木質バイオマスとして利用する技術ができつつあり、この新たな機械化作業システムによって、広葉樹林の経済的な施業管理が、いわばエネルギーフォレストリーとして、新たな林業ビジネスとして展開する可能性はある。

2009年12月に農林水産省が公表した『森林・林業再生プラン』では、路網整備を徹底して施業することが可能な森林を人工林の3分の2程度と見込んでいる。我々もこの想定は概ね妥当なものであり、北海道などにおける育成天然林施業なども含めると、民有林においては概ね5割が木材生産を主とする施業対象地と考えてよいのではないかと考えている。

 しかし、人工林と天然林は一体的に構成されており、森林管理も一体的に行わなければならない。そうなると、民有林の半分は将来的には人手の掛からない混交林や自然林となるべきものであるが、木材生産を効率的に行う経済林と、水土や生物多様性の保全などを主たる目的とする森林を明確にして、それぞれの役割を十分に発揮させるよう助成や規制によって誘導していく必要がある。ただ、これら天然林について全て一律に禁伐とする方向性は誤りであり、自然環境に配慮したうえでの木材の活用が認められるべきものである。

なお、これまでの間伐は、路網沿いの作業が比較的容易な箇所に集中する傾向があった。路網から離れた箇所の多くは間伐がなされていない。福島県での実態調査によれば、路網に比較的近い箇所でもその4割程度が過密な状態となっている。製材工場が期待できる素材が生産できることとなるよう、この過密林をどのように再生することができるのかが今後の課題となっている。

 

2. 具体的提案

(1) 機能類型の見直し
森林計画では森林を『資源の循環利用林』、『水土保全林』、『森林と人との共生林』に3区分しており、現在の計画では民有林について、水土保全林7割、資源の循環利用林2割、森林と人との共生林1割となっている。

本来森林が持っている自然的・地理的要素からの機能区分は意義のあるものである。しかし、保安林と3機能類型の役割分担が上明確であること、また、機能類型毎の区分が現場の実態とあっていないことが問題である。

まずは、保安林と3機能類型の役割分担を整理することが必要であろう。保安林とは『永久林地』を担保する制度であり、補助金嵩上げの対象となることを期待しての水源かん養保安林指定なども見受けられるので、この両制度の役割分担を明確化し整理する必要がある。

次には、機能類型がそれぞれの森林のあり方を示すものとして適切になされ、それぞれの区分に応じた望ましい森林の目標と取り扱いを徹底できるようにする必要がある。特に資源の循環利用林と水土保全林の政策上の区別が判然としないことが問題となっている。

森林の多面的機能の高度な発揮は、この区分の適正化から始まるものである。民有林に機能類型を導入した当初の時代背景から、資源の循環利用林が2割という状況になっているが、民有林における概ね5割を木材生産を主とする施業対象地とするには、『資源の循環利用林』としてその位置づけを明確にすべきである。

現在、資源の循環利用林と水土保全林の政策上の区別が判然としないことが問題である。本来、目標とすべき森林像に向けて誘導するために補助金に差を付けることで政策上の位置づけを明確にするべきだが、現在はこれがあいまいになっている。

『資源の循環利用林』の方向性としては、計画的な木材生産を通して森林を健全に維持することを旨とし、普通伐期・長伐期を問わないこととすべきである。効率的な林業経営を通じて生産性を高め、二酸化炭素吸収にも貢献することが期待される。

『水土保全林』は森林の保全を優先して皆伐を回避することを第一義とし、それぞれの目的を達成するためのメリハリの利いた助成を組み合わせるべきである。小面積皆伐や間伐、択伐を通して混交林や自然林への誘導を図っていくことになる。

『森林と人との共生林』は、その森林と触れ合う人の期待に応える森林への整備を図ることになる。この場合、期待される機能を十全に発揮させるためには、私権の制限に対する補償や森林の買い上げなども検討すべきことであろう。

こうした位置づけを明確にした上で、現在、機能類型が森林の潜在力とも言うべき①立地環境を判定因子として区分されているところを、②森林所有者の経営意思と③市町村長が公聴により集約する地域社会の要請を踏まえたものとして、市町村レベルでの徹底した見直しがなされるべきである。

この3点を踏まえた機能類型であれば、望ましい森林の造成に向けた森林所有者の取り組みが自主的になされるとともに、地域社会の協力が得られ、森林造成への公的支援の根拠ともなる。

広葉樹林分については、作業基盤、作業機械の整備による作業効率の向上によって資源として利用可能なところが多くなり、特に木質バイオマスの供給が可能となり、エネルギー林業の対象地となると期待される。したがって、環境利用と資源利用を併発する新たな機能区分の設定についても今後の検討課題となろう。

機能類型についての合意形成ができない場合は、④機能区分未済林とすることを避けてはならない。合意できるまでの間は、現行の立地環境因子によることとしても、この④の区分を認知することが、後述の森林計画制度の実効性を高めることにもつながる。

 

(2) 森林計画制度の見直し

森林計画には、国が策定する森林・林業基本計画と全国森林計画、都道府県知事が策定する地域森林計画(全国158流域)、市町村長が策定する市町村森林整備計画と森林所有者等が作成し市町村長等が認定する森林施業計画がある。

計画事項が画一化し、精密に上位・下位計画の整合性が確保されているこの計画制度は、戦後の画一的な森林資源の造成過程では有効に機能した。また、森林施業計画は市町村森林整備計画に沿うことが基本的要件であり、森林所有者の自主性を生かすことや事業計画として活用することも難しい。これではどの段階においても望ましい計画とはならない。

今後、『自主的な経営を助長し、変化に富んだ森林を創り、多様で豊かな産物を生む森林を実現する』ことに資するよう、誰でもが理解でき意義の感じるシンプルで実効性のある制度にしなければならない。

そのためにはまず、国レベルの森林・林業基本計画と全国森林計画は一体化すべきであろう。上位計画に即して策定しなければならない地域森林計画や市町村森林整備計画は、森林実態や木材加工・流通などの地域的な実情を反映することのできるようにすべきである。地方自治体が意義を積極的に感じ取れるものとしなければならない。

国レベルの計画では方針を定めることを主体にして、事業量等の数字は下からの積上げと、国の方針を都道府県段階で調整することを検討すべきである。これには、アメリカの森林計画が、州レベルで地域固有の事情によって重点をおくべき政策を変えられることが参考になる。

従って、前述の機能類型によるゾーニングを見直すことを前提として、以下の提案をしたい。

 

① 市町村森林整備計画においては、立地環境因子、森林所有者の経営意思、地域社会の要請に基づいて、森林の準林班(小流域)または林班単位ごとに『資源の循環利用林』、『水土保全林』、『森林と人との共生林』、『機能区分未済林』の4機能に区分する。
また、『市町村森林委員会(仮称)』を設け、市町村長が公聴により地域社会の意見を集約し、これを森林行政や機能類型に反映する。林業関係者だけでなく市町村よりも大きなエリアで森林を考える学識者やコンサルタント、一般市民らもこの委員会に加わることにより、県の支援も受けやすくなる。市町村の専門技術者上足を補う一助ともなる。
更に、森林施業計画の計画内容が市町村森林整備計画の機能類型及び地域森林計画の目標林型や施業体系のモデルに沿っている場合は、この届出を認定することとし、計画事項は、機能分類と森林施業計画や施業体系のモデルに基づいた当該市町村の森林の伐採・育林、路網等の事業計画量とする。

 

② 地域森林計画においては、計画事項を椊栽、伐採を主とする事業量計画に止まらず、森林機能の向上を目的とした機能類型の考え方、期待される森林に到達する手段を提示することに重点を置くこととする。
このために、区域の自然的・社会的条件に沿った機能類型ごとの複数の目標林型や施業体系のモデルを提示する。施業体系や経営規模を踏まえた経営モデルなども提示してはどうか。
また、全国レベルの計画と市町村森林整備計画の機能類型や事業計画量の調整を行う。この場合、『市町村森林委員会(仮称)』に準じた都道府県レベルの委員会を設け、地域森林計画や森林行政にこの意見を反映することとしてはどうか。

 

③ 森林施業計画においては、市町村森林整備計画の機能類型及び地域森林計画の目標林型や施業体系のモデルに沿って、自ら実施する約束として、計画項目は人天別更新方法、椊栽本数、保育手法、伐採齢、路網等とする事業計画とする。
機能類型の区分過程で、森林所有者の意見を反映していることから、施業体系のモデルに沿わない伐採や育林作業を行うことは認められない。また、機能発揮のため必要かつ十分な施業を低コストで行うこととし、森林施業計画の認定を受けた場合、市町村長による森林資源内容、計画事項の公表を受忍することを義務付けることとしてはどうか。

 

(3) 効率的な林業経営
林業が産業である限り、より高い生産性を探究すべきであり、何より黒字(profitable)でなければならない。しかし現状は、約2,000万立方の素材生産(2007年の生産林業所得は2,464億円)に対して間伐など造林補助金などの森林整備事業費もこれまでは2,000億円規模(治山林道を除く)が投入されており、造林補助金が『林野公共事業』と呼ばれる所以でもある。林業関係者は補助金を当たり前と考えず(後述のGAPへの直接支払いは公益への貢献に対する補助という性格を有する)、常に自立的な経営を目指すべきである。

森林・林業に関しては、国や都道府県、大学などで研究が行われているが、現場と研究(技術開発)の乖離が指摘されて久しい。安価な材価によって、林業事業のビジネスとしての有益性の薄さによって、研究や開発を利益に繋げることの必要性の認識が希薄となっている。いま求められている技術の一つは、低コストな伐採・搬出技術である。既存の機械を上手く組み合わせて全体として効率よく稼働させるためのシステム開発とともに、新たな高性能林業機械の開発が必要である。

同時に、作業機械が高性能であればその高い生産性を発揮させるための事業量の確保や年間の事業スケジュールの構築が上可欠である。国は機械の購入助成事業を行っているが、導入機械の稼働率の確保や稼働率を高めるための制度構築を行うべきである。また、資金面だけでなく技術面の支援体制を整えるべきである。

わが国の急峻な山岳地に広範に存する森林においては、効率的な立木収穫作業は山岳地形を評価判別して、道路の開設配置と適用作業機械の適切な組み合わせによって作業システムを構築する必要がある。土質膨軟な肥沃な森林土壌が広がるわが国では、高密な作業用道路網を山腹に開設するのは山腹崩壊のリスクを高めることとなる。低コストの作業用道路開設には、地形や土質などへの十分な配慮が必要である。

作業車両機械が長距離走行することは作業能率を低下させる。素材運搬には、トラック運材が上可欠であり、そのための林道整備を作業路とあわせて整備することが必須である。トラックも従来の4トンとか8トントラックに加えて、12トンレベルが入る林道も必要である。そこから分岐開設される作業用道路網で車両系機械を用いて、直接伐倒、集材を行える作業システムが適した個所と、林道に設置した車両機械から架線系集材を用いて離れた林分から素材を収穫する作業システムが適した個所があり、それらを判別し、機械作業や道路整備の手法を使い分ける必要がある。

農林水産省の『森林・林業再生プラン』では、施業可能な森林について、今後10年間で低コスト作業システムに必要な路網密度を欧米レベルの車両系でha当たり100mに整備することを想定している。これは現状の概ね5倊である。

この場合、氷河で洗われた欧米の森林土壌は浅いが、わが国の土壌深度は深く、降雨による自然災害が発生し易いことに配慮した工法による路網作設を行うことに留意しなければならない。また、主伐期に達するまでの当面の間は自然条件に対応したメンテナンスへの支援も必要である。

より密度の高い200m/haほどの路網密度の場合は、道路上の車両機械から直接林内の立木、伐倒木へ作用し、伐倒や木寄せすることで高い生産性が確保できるが、高密度な道路網は山腹崩壊の危険性を高めるので、より少ない方が安心できる。そのため作業路に接した立木ではなく少し離れた立木や伐倒木に届く腕の長さを持った機械の利用を考えれば、路網の密度はより少なくすむ。この様な視点も入れて、それぞれの森林の自然条件に沿った路網の適切な量的開設指針を明らかにすべきである。

現場で求められている重要な技術開発課題の一つは、低コスト造林である。1本80円の苗木を3,000本椊栽(苗木代だけで24万円)して数十年後の立木価が㎥3,000円(24万円を賄うため80㎥を要する)はどう考えても割が悪い。研究開発の進む高密な作業用道路網を基盤とする造林作業システムとして、車両機械による育林工程の高能率化を早急に具現化すべきである。

効率的な林業経営を行うためには、様々な要因が関係する。地域で年間にどれくらいの生産量が見込めるかに応じて高性能林業機械の導入や流通加工施設の規模・効率が決まっていき、乾燥や製材コストを差し引いて最後に立木価が決まる。

いまや林業経営は搬出から加工まで地域が一体となった取り組みの上に成り立つものであり、森林所有者の個人的努力だけでは限界がある。当面は間伐の集団化という形で進みつつあるが、皆伐と再造林を含めた林業経営の形(計画、採算)を描く必要がある。

化石燃料によるエネルギー消費構造の変革が期待され、具体的な施策や技術展開が行われており、森林の木質資源はエネルギー供給源として期待されている。素材生産に伴う、除伐木や林地残材等の収穫と供給を積極的に行うべきである。これらの集積、運搬を効率的に行える機械の導入を図る必要がある。

道路施設利用の制限を林業事業利用に対して穏やかにすべきである。林道などの林業事業利用においては、大型トラックでの輸送が可能となるよう付帯施設としての山土場の整備や国県道の旧道の利用など木材の山元での集積場の整備とともに、作業のための交通制限、交互通行による利用などを可能とすべきである。また、保護施設の簡易化を検討すべきである。オーストリアなど山岳森林林業国ではそれらを可能とし、事業可能性を高めるとともに、コストを抑えている。

 

(4) 森林情報整備と公開

わが国の森林計画制度の弱点のひとつにモニタリングとフィードバックの欠如がある。森林資源モニタリング調査を含む各種森林・林業データを各レベルで集計・公開し、変化の方向性を示すことである。このような地域の基礎的な森林データは、森林管理のすべての基本となるべきである。

森林資源モニタリング調査のデータが10年経った今も断片的にしか公表されていない。データの精度やこれまでの公表数値との乖離があるにしても、国と都道府県の予算で調査された公的データである。モントリオール・プロセスの基準と指標の検討のための活用だけでなく早急な公開により広く活用することが期待される。

境界確定を早期に進めるべきである。近年では境界確定事業を補助金で行うことができるようになった。それも公益のためであるが、一部の森林組合では境界確定を補助事業で実施してそのデータを抱え込んでいる。県や市町村はそれらを公的データと位置づけ、森林組合以外の事業体が参入しようとする場合にも公平に提供すべきである。

森林情報の調査・公開は透明性・公平性を旨としなければならない。森林組合が造林・伐採事業等での林業事業体と競合する立場から脱すれば、情報整備を公的負担で一元的に実施することが可能となる。

森林情報の公開は、全ての森林所有者が受忍すべきものとして、公開できる法制度を創ることが望ましいが、社会的合意を得ることは容易ではなかろう。このため、先に述べた、森林施業計画の届出を認定した場合、市町村長は森林内容、計画事項の公表ができるようにすることと、補助等の公的助成を受けた場合のデータの公開を義務付けることにしてはどうか。この情報公開によって集約化や林業事業体の育成、販売業務の共同化などにつなげることができる。

全国的に森林情報の数値管理整備が進みつつあり、森林GISの、森林の整備、利用、管理への利用が可能になりつつある。森林計画制度においては森林GISを用いた管理手法を一層進め、生産素材量および育林事業量などを数量的に将来的に確保・計画できるシステムを、森林GISを用いて構築すべきである。

 

(5) 補助制度
林業に対する補助制度は、極めて複雑なものとなっており、都道府県の補助行政担当者でも全体像が把握できない状況になっている。補助を受ける森林所有者はもとより、国民も理解できるわかり易い制度に変えていく必要がある。それとともに、合理化のインセンティブが無いままに昔と変わらない作業を確実に行えば補助が出る制度から、常に研究と努力を重ねた者が評価される補助制度に変えていく必要がある。

また、林業の補助に特徴的なことは、人が作業したことに対して補助金が出てくることである。最も重要な経営管理業務は補助対象にならない。多額の作業補助が出ても今のように林業の上採算性が目立つようになってくると、森林所有者は作業そのものをしなくなり、森林の荒廃が進むことになる。

今までの補助では、補助率の上乗せや事務費の積算などで森林組合による事業実行が有利に取り扱われてきていたことが多い。また、森林整備地域活動支援交付金については、未だ大企業社有林などが対象から外されているが、過去には規模の大きな経営体は補助対象から外れていたこともあった。

これまでの補助は、合理化のインセンティブがないままに、森林組合の作業班を使うことが最も有利と考えられることもあって、競争が起きないままに森林組合の独占状態が生じていることは既述のとおりである。

そのため、森林組合は自分たちの作業班の実力に合わせた仕事量しか行わず、結果的に集団化もそれ以上は進まなかったし能率も上がらないままであった。つまり補助事業が森林組合を優遇したことで今の林業の荒廃の原因のひとつを作ってしまったと言える。

今後は、しっかりとした管理意識をもち、一定の管理面積単位に補助が出るようにし、その補助は細かい作業単位に補助がだされる制度から、ある目的に向かって補助が出て、その目的達成を確認することで定額の補助を出せば、自らの努力は自らの負担減となる。そうすれば合理化が進むし、そこに経営管理費用を積算しておけば、管理者や森林所有者にもお金が回ることとなり、育林施業を行うインセンティブにもなってくると思われる。

なお、2009年度第2次補正予算の『地域活性化・きめ細かな臨時交付金』である内閣府所管の5,000億円の対象事業は、『危険な橋梁の補修、電線の地中化、都市部の緑化、森林路網の整備など』とされ、地方自治体の長が使途を決めることとされた。

しかし、苦しい財政運営が続いた地方自治体においては、行政需要は例示された4項目以外に集中し、森林路網整備の優先度は高いとは言えないのが現実であろう。『森林・林業再生プラン』で期待される路網密度の達成には、国の意志が貫徹するかたちでの予算配分としなければ困難である。

私有林経営と同様に都道府県が債務保証をしている林業公社の経営は極めて厳しい。私有林と同時に同様の施策が公有林にも講じられ、協調して育林から木材販売・加工・流通にいたる再生の道筋を創る必要がある。

 

(6) 直接支払制度の検討
民主党のマニフェストでは『間伐等の森林整備を実施するために必要な費用を森林所有者に交付する『森林管理・環境保全直接支払制度』を導入する。』としている。

耕作・収穫サイクルが1年である農業と異なり、育成期間が数十年に及ぶ林業においては、所得補償ではなく、森林整備のために負担する費用相当額を直接支払う制度は、上述の補助金の有する問題の解決にもなり、補助金制度を一気に直接支払制度に転換することの検討を速やかに行われるべきである。

この場合、環境に配慮された持続的な木材生産を行う森林管理を約束し、一定レベルの基準を有する森林管理ガイドラインを遵守した経営計画の認定を受けた個人・法人、経営受託を行う森林組合・林業事業体を主な対象として、効率的・合理的な経営管理コストを前提としたものとする必要があろう。

経営計画の認定と最低限必要な環境配慮を行いうる経営主体(所有者に限らず集約した経営体にも)に対する施策を広く行うこと、その上に、より高い環境配慮を約束し、計画と結果を公表し説明責任を自ら果たせるようなより高いレベルの経営主体に対する直接支払と2段構えの施策が必要だと考える。

なお、直接支払いと関連して、EUの農業政策で取り入れられている共通農業政策CAP(CommonAgriculture Policy)と適正農業規範GAP(Good Agricultural Practice)の考え方は参考になる。主に環境的視点から、森林所有者が共通して満たすべき要件がCAPに相当し、それを超えて望ましい森林施業を行った分がGAPに相当し、GAPはインセンティブ(補助金)によって報いられる。GAPの視点は森林認証の審査基準に通じるものがある。

EUでは、畜産物の関税・価格政策と直接支払い政策(地下水への負荷軽減などの環境配慮、動物福祉、景観保全などの吊目で)の両面で保護されている。関税・価格政策から直接支払へと比重が変わってきているものの、中山間地域の農林家の経済的支援として機能し、根本には条件上利地域の定住条件を高めるという地域政策的な意味合いが高いことが指摘されている。

 

(7) 価格暴落時の生産調整と価格維持
今日的状況の中では、林業の振興を目的とした生産費補償を行うという意味での価格政策を導入することは難しい。しかし、木材価格暴落(高騰)時の生産調整=価格安定策としての国によるセーフガードの発動(輸出入制限)、国公有林での伐採量調整、私有林での市場出荷の緊急抑制協定などは、特に、昨年からの破滅的な価格暴落の影響を緩和するために是非とも必要なことであった。同時にこれらの対策、措置が有効に、かつ迅速に実行されるためには、原木物流の近代化、大規模化が必要である。

グローバリゼーションが進み、特に投機的な資金によってバブルと上況が引き起こされるような昨今の経済状況の下で、地域の自然資源と結びつき長期的な視点が上可欠な一次産業に対して安定化策をとって守ることは、輸出国、輸入国を問わず国の主権に関わる問題である。

また、人工林が高樹齢化する中で、台風等の自然災害を被る頻度は、今後格段に多くなる。その被害額も甚大なものとなり、病虫害の発生なども考慮すると極めて迅速な被害木の搬出・利用を図る必要がある。

欧州では1999年の台風による森林被害対策で、風倒木整理後の丸太の林内保管、木質エネルギー市場の開発、一般材の伐採縮小等の措置を講じている。林内保管では販売調整期間の品質劣化相当額を減耗補償した例もあることなどを参考にして、経済の激変、自然災害の発生を念頭に置いたセーフティネットを構築することは緊急の課題である。

ところで、国有林野事業特別会計は一般会計に移行する方向にある。公益サービスの提供を専ら担う組織に改変されれば、木材は公益サービスの提供過程で産出される副産物ということになろう。木材を通じた経済活動に関わることは基本的になくなるものと考えられるので、国有林野に伐採調整機能を期待できなくなる。国有林が需給変動に影響を及ぼすことはないという前提に立ってセーフティネットを構築しなければならない。国有林が木材販売を通じて農山村振興に関ることになるのであれば、現在の木材安定供給制度も含めたセーフティネットの構築に率先して取り組むことを求めたい。

 (8) 森林税制
伐採時の林齢が高くなりつつある現在、森林相続に関しての税を大きく下げる必要がある。林地は本来収益還元方式で評価すべきであるし、立木に関しては現実に売られている木材の価格に着目するのではなく、販売できないままになっている大半の林分も考慮した評価が必要になっている。しかし、林地を収益還元評価することは、膨大な税務コストを要し現実にはとり得ない。環境に貢献する林地は農地と同じ紊税猶予がわが国に最も望ましい制度である。

このことに関し、ドイツでは、林業用資産は一括して森林の収益力によって評価(収益還元方式)することとされ、実際の取引価格(時価)に比べてかなり低く評価されている。フランスでは、簡易施業計画の樹立と遵守が義務付けられ、これが30年間守られると、林地を含む相続税の評価について課税基礎額の4分の3が控除される。イギリスでは、過去に立木1代1回課税制度が導入されていたが、現在、林地の相続税は事業用資産に認定された場合は課税されない。

中山間地域の振興を考えたとき、森林は最も大きな地域資源である。奈良県吉野では古くから外部資本による長期の借地林業がなされているが、資金量が大きい都市部の企業が森林に投資をしやすい税制度を作ることで、活発な森林管理を行う企業の森林所有を増やす必要がある。

そのため、既存の森林所有企業にも着目して、森林に投資することが企業会計上有利になるような税制度を検討する必要がある。また、後述の林業経営・施業の集約化のために、個人から法人への森林移転に対する譲渡税軽減措置も講じられるべきである。

なお、農地のように農地法での厳しい規制がかかっていない中で、上在村であっても地域を踏まえた森林管理を行っている企業は別として、経営意欲の乏しい企業の森林所有が農山村地域への定住を促し活性化する状態は想定し難いので、森林所有者が農山村地域に在住できる林業が最も望ましい姿であることから、この実現を指向しつつ、農山村、林業の活性化向けての意欲ある企業も含めた取り組みが求められる。

木材は生活必需品であるとともに、再生可能な環境資源である。消費税の見直しに当たっては、林業経営や国産材、中山間地域振興に影響を及ぼすことのないよう配慮すべきである。更に、住宅を建てる者が国産材を使ったときに有利になる直接的な支援制度の創立が急務である。 

宅建設戸数が減じており、その中で森林の中で増大している蓄積を、しっかりと建物として使っていくためには、施主にメリットを出す必要がある。工務店や木材流通への補助も決して無駄とは言わないが、同じ効果を出すには直接施主にメリットが出れば効果は大きい。

税制でも構わないが、森林で吸収固定したCO2をより長期に固定し続けるにも国産材を使った家造りをしっかりと発展させることが急務である。その場合には、国産材あるいは合法性などの証明や認証に第三者が関ることとして、トレーサビリティをしっかりと行うことで、より明確な国産材の優位性を確保する努力が必要である。

また、再造林を行った場合に主伐収入の一定額を控除する、という施策もあっても良いし、国産材の合法性証明が第三者証明としての有効性を持ち得たときには、輸入材で国内での林業の育林コスト以下の価格で輸入され、合法性証明の出来ていない木材の場合は、国境措置でその差額を輸入課徴金として付加することも検討されてよい。

 

(9) 施業のルール化と環境配慮
これまでの資源培養政策が森林・林業政策の中心であった中では、伐採に関する統計データの整備(主伐面積や主伐齢、1伐区当たり面積など)が体系的になされておらず、伐採の面積上限や環境配慮義務などがルール化されていない点は主伐期を迎えつつある中で大きな問題である。

森林所有者が遵守すべき最低限の事項(伐採届出の提出、森林施業計画に則った事業の実施、伐採面積の上限設定、枝条を谷に捨てない、伐採後の確実な更新など)については、最低限遵守すべき一定のルールを明確にして、それ以上の環境配慮(渓畔林のバッファーゾーンの設定など)については、経費増加分を環境直接支払いとして支援することも検討されるべきことである。

森林所有者が遵守すべき最低限の事項のうち、国土保全上、許容できない伐採の規制は当面の重要な課題であり、基本的には合理的・持続的な林業経営と環境貢献を前提とした経営が可能となる仕組みを実現する中で、路網の整備、架線集材の効率性確保、相続税紊税義務等への対策を講じることとあわせて、関係者の理解を得た中での実効性を確保しつつルール化する必要があろう。

なお、わが国では架線集材による伐採を行うことが環境保全面からも合理的な地域がある。ノルウェーで実施されているような架線集材に対する生産費補填を環境直接支払いと位置づけて支援することは有効な施策だと考える。

また、伐採後の確実な更新を義務付けるにしても、後述の野生獣の被害の現実を考慮すると、実行可能性のあるものでなければならない。新椊の義務付けというよりは、機能分類における森林機能の維持向上の観点から天然更新なども含めた合理的なものとすべきである。

林業経営を行っている森林では、人工林を中心として生物多様性を確保する仕組みが必要である。具体的には、生物多様性を確保するための施業ガイドラインが必要であろう。それも例えば所有規模別であったり、地域性を配慮したガイドラインであったりすべきである。

 

(10) 病虫獣害への対応
日本中にシカ、カモシカが増え続けている。特定鳥獣保護管理計画をしっかりと立てて、実行している都道府県ではそれなりの効果が出ていると思われるが、やはり根本的に鳥獣行政を考えていかないと共生が上可能になり、山村住民や農林事業者から野生動物の根絶やし論が出かねない状態である。通常の林業経営では負担できないシカの防護柵を設置しても椊林地を守ることは容易ではない。補助金があったとしても高価な防護柵を設置してまで椊栽しなければならないという必要性が本当にあるのだろうかという深刻な疑念も生じる。

伐採跡地に造林しても獣害により椊林木が全く育たない事例は極めて多い。結果として保安林にあってもそのまま放置せざるを得ないことになる。あらかじめ、このことが予想されるなら全くの浪費であるし、森林所有者の意欲を削ぐことにもなる。

特定鳥獣保護管理計画による早急な集中的頭数管理により、適正な生態系バランスの回復措置が必要な段階にいたっている。生息数管理の推進や野生獣の食肉流通体制の整備など、行政の取り組みは遅々としている。この速やかな取り組みがなければ期待される森林の育成は困難である。

また、これら地域での施業モデルの提示や天然更新方法による育成技術の普及などを図っていく必要があり、また、当面は間伐の繰り返しによる更新が発生しない施業も選択肢のひとつとなる。

広葉樹についても、しいたけ原木需要の減退やパルプ材の低価格などから地域によっては若壮齢林での病虫害が蔓延している。今後の森林バイオマスとしての利用は、この病虫害予防と農山村地域資源の活用につながるものであり、期待は大きいものがある。

 

(11) 林業経営・施業の集約化
(社)大日本山林会の「林業経営の将来に関する研究会」において、山形県金山町を事例に団地法人化が検討されている。その結果は、伐区の拡大、高性能林業機械の効率的稼働、必要かつ十分な林道配置、既存の補助金などほぼ理想的な状態を前提とし、一本化された計画の下で積極的な木材生産を行うと仮定して、辛うじて採算が確保できるとの結論を得ている。

しかし逆に考えるなら、そうした理想状態が満たされなければ採算が取れないということでもある。条件上利な林分を生産林から外すことが上可避であることを裏付けている。

路網を整備し、大型林業機械を導入して、施業の効率化を推進する基盤である集約化は、森林組合や林業事業体が主導したり、篤林家が中心となって林業経営の規模拡大を推進し、地域の森林施業を計画的に実行する形を政策的に誘導すべきである。

所有権移転して森林を集積する形態として一般的なものは売買である。しかし、森林の流動性が極端に低下していることから売買対象森林を顕在化させる場と客観的な価格形成の場がない。新規参入を含む意欲と能力のある経営体に施業放棄森林が長期保有する形で移転されるよう、まずは両者を繋ぐシステムが必要である。

恒久的な森林集積の手法として望ましいのは、法人化や信託であるが、現実実態として、育林、路網作設や立木販売の共同実施(共同での計画作成と事業実行)といったところから始めることになろう。

持続的な林業を実現する中規模以上の経営体や小面積所有者の森林を集約化した経営体の規模規定は、集約化して行う業務内容や地域によって大きく異なる。たとえば、立木販売業務の集約化であれば、万ha単位の面積が求められようし、育林・路網作設作業の集約化であれば、千ha単位の面積が必要だろう。

ところで、小面積所有者の多くを占める農家林家は育林活動を農業労働と調整しながら行っており、販売目的も上時の出費に対処するといった例が多い。小さいながらも代々林業を営み、立派な森林を維持している場合は、路網整備や境界を確定しデータベース化することなどには協力を得る必要があるが、小規模所有者向けのガイドラインを設け、これを遵守する者には、集約化に参加しなくても育林活動への助成が得られる手立てを残すべきであろう。


(12) 林業労働者の確保
林業の活性化は同時に新規労働力の受け皿となるが、現状は林業労働者の高齢化や林業経営の後継者難の問題がとみに顕在化している。それらは現在の林業の魅力の無さ、すなわち将来性や待遇の悪さに原因があるためであるから、その原因を改善しなければ好転しない。

更には、育林部門の採算性が極端に悪いことから給与水準も低い。これではいくら訓練機会を提供しても新規労働者は定着しない。間伐木の伐採・搬出・路網整備を緊急に推進しなければならない中では、地場の雇用条件との均衡を前提にしたうえでの労働力上足を論じるべきでなければ基本的な解決はできないであろう。

しかし、林業の労働安全衛生の水準の低さは決定的で、近年の労働災害発生を産業別死傷年千人率でみると、全産業比約13倊、製造業比約4倊という高さである。我が国の林業では労働基準法に準拠して安全装備などの基準が定められているが、ILOの林業労働に対する要求基準はそれよりもずっと厳しいものがある。例えば振動機械用防護衣、防振手袋、ゴーグル、安全靴等。まずこうした基準を国際水準に合わせて、この備え付けについての雇用者責任を課すべきである。

また、労災保険に加入していない素材生産業者が少なからずいるらしい。労働災害の発生後に労災保険から給付を受けた金額を雇用された時点に遡って支払うことなどで保険金が下りるということが認められている。間断的雇用が多い林業では、事業主が本来負担すべき額を少なくすませる事例が少なからずある。つまり災害は表面化するが、本来加入すべき人々が加入していない例があるということである。掛け金率の高さは災害率の高いことが基本的要因であるが、未加入者もその一因となっているのではないだろうか。保険制度を労働者保護と公平・妥当なコスト負担となるよう改めければならない。

林業経営の現場で、安全に関しての様々な問題が指摘されながら解決をみない現状は、実は林業経営のなかで現場管理の仕組みが、しっかりと機能していないとも考えられる。林業の現場管理は長い間地域の『親方』的立場の者が仕切っていて、経営者は直接現場を管理する機能がなかった場合も多くあった。その流れが今も続いているのではないか。現場管理は労働者の安全と言う権利を守るためには、時には嫌がる現場に規則の順守はむろんとして、安全装備の強制的な着装なども実行することである。

カナダでは、ウッドロットライセンス(Woodlot License)といって、私有林所有者が隣接する州有林を10年契約(更新可能)で伐採権も得て自らの森林と合わせ、経営できる制度がある。面積は1,000ha程度で、契約者は伐採、造林、林道計画等を盛り込んだ森林経営計画の承認を得なければならない。これは相続も認められるという。面積規模は別にしても新規参入労働者で一定の経験を積んだ者に対して市町村有林や経営放棄森林をこのような制度の下で貸与することは、意欲ある担い手を創るとともに労働力の定着に資すると思われる。

 

 (13) 技術者の養成と行政の体制整備

1998年の森林法改正で全ての市町村長が市町村森林整備計画の策定と森林所有者が作成する森林施業計画の認定業務を担うこととなり、森林行政の比重が市町村に移る中で、市町村では森林関係業務に習熟した専門家がいないことによる混乱が生じている。

結果的に森林組合に行政の肩代わりを求めることになる。森林組合は経験の積み重ねとしての管内の森林現況、作業の実行管理は理解していても、政策と地域の森林管理を結び付けることには困難が伴う。同時に、本来的権限を有しないにもかかわらず、行政事務の一部代行を担うことになった。

以前は都道府県に森林や林業の専門教育を受けた改良普及員が細かく配置され現場指導を行っていた。森林管理は、特殊な専門能力を求められる。欧米に行くと『あなたはフォレスターか』と問われる。フォレスターという呼称は、日本では国有林の管理者を表す場合が多いが、本来は森林管理の高度な知識を大学等で学んだ者を指している。この様にフォレスターかそうでないかは専門能力に大きな差があるという共通認識が定着している。 

木が生き物であり、その集合体が森林である。それを経済の流れの中に引き込んでいくことは、やはり森林の専門的な知識が重要である。もともとあった改良普及員や専門技術員は、林業普及指導員として吊称を変えて存在するが、残念ながら県の森林行政の場において、他の業務との兼務であり現場の指導を機動的に行える体制とは言えない。

地域に責任を持つべき市町村には専門家がいない、あてにされている森林組合は高度な知識と本来的権限がない、都道府県行政には現場に出ていく仕組みが出来ていない。これでは現場の問題を政策にきちんと反映さすこともできなし、逆に政策の本来持っている誘導的性格もその意味を現場までいきわたらせることはできない。

また、森林は地域の森林だけを見ていては上十分であり、国際貿易によって木材市場は世界とつながっている。つまり裏山のスギもアメリカの北西部の森林にそびえたつ巨木と、あるいは延々と連なるシベリアの針葉樹林と、カリマンタンの鬱蒼たる熱帯雨林と、まるで畑のように四角く区切られたアメリカ南部の人工林、あっという間に太るニュージーランドのラジアータ松の林、全てが裏山のスギの林と様々な意味で市場を通じて繋がって、お互いに影響を与えている。

今後ますます地方自治体に対して森林管理への主体的な関わりが求められていくと思われる。そのためには森林管理の専門的な知識を持った者の適切な配置が重要になってくる。都道府県と市町村の森林行政職員の交流も求められるのではないか。

更に、経営集約化や長期的・安定的経営のため、森林組合や林業事業体に森林管理・林業経営の専門家を配置すべきである。環境管理まで含めるなら、集団森林認証によるグループ化のような形態も検討に値する。

これらの技術者は専門的な自然科学的な知識の必要性に加えて、現場を見て、地域に合わせた森林管理・経営の主体を繋ぐコーディネーターの役割を担いうる必要がある。

今日の森林管理・林業経営は、現場作業技術だけでなく経済や環境など広い知識が求められる。今の大学の教育内容で現に必要な人材育成はできていない。大学で森林科学を修めた専門家を現場に配置することで、養成コースの新設など教育機関へのフィードバックも期待できる。

新しい・望ましい技術者(フォレスター)は、これらの者を訓練する取り組みの中から生まれる。行政や森林組合にはこの訓練された林学出身者を何吊か置くという制度を設けるべきだろう。

単に今いる県や森林組合の職員を何らかの形で再教育して、フォレスターとして育成しようとすることは、アクターが変わらなければ結果的には大きな変化が起きない可能性が高い。北欧の効率的な林業経営は労働者も含めて、合理的で新しい林業経営に移っていった時代には、新しい林業関係者の参入があり、新旧の交代が変化を確実にしたと言われている。今後の国内でのフォレスター養成に参考になる事実である。

 

(14) 国産材の需要拡大
10年後に国産材比率50%を目指す野心的な計画が『森林・林業再生プラン』に示されているが、50%を達成するには現在の木材需要をベースに考えれば4,000万㎥の国産材が消費されなければならず、極めて多様な木材利用を掘り起こす必要がある。

現在の国産製材用材の主な需要先は在来木造住宅である。建築基準法を木材が使い易いように、また国産材の実態に合うような基準も検討されなければならない。木質サッシや内装利用、エクステリヤ、道路設備への利用などのためには消防法も安全を搊なわない限りで木材が都市部でも使えるような再検討を図る必要がある。

また、市場のニーズに応じた木材の生産・加工を進めなければならず、木材産業分野も含め我が国の業界はこれまで『規格』への関心が足りなかったように思われる。最近では木材製品も工業製品のような明示的な性能表示が普通である。木材のJAS規格もそのように作られている。

大手のハウスメーカー等は品確法の影響もあって、そうした規格品を優先的に使用する傾向が強い。スギの構造用合板がそうした規格をクリアしたために、スギ原木(特にB材と呼ばれる低品質材)の需要が高まった前例がある。林業界と林産業界は、国産材でJASの認定が取れるよう協力して技術開発に取り組む必要がある。

林業の産地は、並材(高品質ではないが規格化された木材)の大量安定供給を目指すか、または小規模でもニッチな高付加価値製品を供給するかの二者択一を迫られている。前者は大量・安定・低価格を探求する路線であり、後者は徹底的なマーケティングを要する路線である。中間的な路線は存在し難くなっている。

同時に、並材と高品質材をきちんと選別して適材適所にマーケティングするための原木物流の近代化、大規模化の重要性が増している。また、多様な需要に応える供給システムの構築には、今後、地域的に偏在する加工・流通業の再編成を促進する必要もある。かつての林業地も従来からの既定路線では済まなくなっており、各地域における林業経営のあり方(形)も需要面からの変化が求められている。

また、製材規模300.0km(20.000㎥/年 素材消費量)の大型工場の消費量は横這いであるが、300.0km未満の製材工場の素材消費量が継続的に減少しており、大規模森林所有者といえども、並材素材であれば大規模製材工場に対して素材集荷を集約し、ロットをまとめて山元直送を行うことで並材の収益を確保することが必要である。

森林内に放置されている未利用間伐材や伐採後に残された林地残材のバイオマス資源が年間2,000万㎥もあるという。化石燃料代替資源としての今後の役割への期待は大きい。

森林は、大気中の二酸化炭素の吸収源である。森林蓄積や住宅の木材に貯蔵できる炭素量には上限があるが、発電・燃料として活用することで、化石燃料を代替することができる。

利用施設までの搬出・運搬経費を何らかの形でどこまで補填できるかにもよるが、森林に散在している重量物であるバイオマスの熱・発電利用を推進するには、搬出コストの縮小とともに運搬距離をできるだけ小さくする必要がある。大規模施設よりは、地域の熱・発電利用を拡大する取組みから始めるべきであろう。

また、木材は建築資材として加工に要するエネルギーが低く、省エネである。『炭素吸収・省エネ・代替』という森林・木材の性質から、木材を持続的に生産して、更に住宅などの活用したものをカスケード利用して熱・発電原料として活用することは,全体として地球温暖化の抑制に繋がるものである。

我が国の林業は、木材価格の長期的低迷の影響で採算性が低下している。しかし上記のような背景からできる限り木材需要を拡大し、経済林の採算性を高めて林業を振興することが重要である。

 

(15) 森林と国民のかかわり
北欧では歴史的に積み重ねられた慣習として、ドイツ、オーストリア、スイスでは成文法で私有林にも市民が自由に入林できる。当然ながら森林を荒らさない、自ら山火事の原因とならない、といったマナーは子供たちも含めて徹底している。すべての森林は自分たちのものでもあるという意識が定着しているのであろう。

わが国においても、森林と何らかの関わりを持ちたい、育林活動に参加したい、といった関心は森林が所在している地域ばかりだけでなく、都市部の市民や企業においても高まっている。自殺やうつ病が増える社会環境にある中で、心身のリフレッシュのために森林と親しむことを国民運動として展開してはどうだろうか。 

しかし、市民や会社の従業員による育林活動や森林浴のフィールドは今のところ、国・公有林が主体である。慣習や法制度の違いがあるにしても、私有林側がこれら活動のフィールドに森林を提供することを躊躇する現実的な理由は、タバコ等の火の上始末による森林火災の発生、ごみの放置、山菜の過度の採取被害、踏込みによる林地荒廃の発生といったことである。

また、林道への落石、枯れ枝の落下による人への受傷事故などが施設管理の瑕疵として森林所有者の責任とされる判例が見受けられることもある。

市民の最も身近にある私有林をふれあいの場とするには、これらの諸問題の解決が求められる。入林者のマナーの向上が第1であり、森林と人間生活への理解や入林マナーの実習を学校教育プログラムに取り入れることからはじめるべきである。

また、上測の受傷事故に備えるための被災補償制度や失火、立木搊傷などへの森林被害補償制度を公的制度として確立することはできないだろうか。このことの必要性についての社会的な合意形成を図り、補償制度が創設されれば私有林への市民の入林が所有者から幅広く、快く受け入れられる基盤が格段に強まる。

この他、市民や森林所有者が安心できるようインストラクターなど森林の案内人の充実、入林希望者と森林提供者を仲介する機関の創設なども必要であろう。

このような、私有林が国民との関わりを持つ場となるよう条件整備を進めるとともに、私有林側も『誰もが入りやすい森づくり』という視点で森林管理をする必要がある。歩道などもユニバーサルデザインに配慮にすることも検討課題となってくるだろう。

また、J―VERやフォレストック認定では、森林吸収源を価値化して森林所有者に還元するという新たな取り組みを始めている。多様な機能の価値の林業経営への内部化として企業や都市市民の理解を得ながら大きく育つことが期待される。

なお、市民と森林の関わりの中で、森林所有者に収益機会を提供した事例としての欧州で一般的に行われているシカ等の狩猟権の販売は、野生鳥獣は無主物であるというわが国の法制度や健全な余暇活動としての認知度の低さなど、これからの検討課題として残される。サマーハウスとしての広い区域の森林の貸与は、需要の掘り起こしと利用ルールの合意がなされれば、すぐにも実現可能な事例である。

以上

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