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東日本大震災への林業の取組(提言)

各位
 
平成23年5月11日
(社)日本林業経営者協会

東日本大震災への林業の取組(提言)

この度の大震災は、有史以来人類が経験した自然災害の中でも極めて甚大な被害が生じています。そこで現地の会員の意見を取りまとめ、今後の施策推進の検討の一助となればとの思いでこの提言を取りまとめました。

提言のとりまとめには、関係各位から様々な貴重な助言を頂き、ここに感謝する次第です。

なお、被災地の皆さまには、心よりお見舞い申し上げますとともに、早期の復旧をお祈り申し上げます。

東北はみどり豊かな森林地帯でありこれを管理する林業もこの震災を機に様々な対応を必要としています。特に、今回の震災復興では、林業が重要な役割を果たすと思われます。

東北、北関東は豊富な森林資源をもち、地域が被災しても森林資源は以前と変わりなく存在しています。津波による被災家屋の多くは、住宅を早急に建てていく必要があり、それにはこの豊かな森林資源を活用することで、地域の雇用を作り出し、地域での資金の循環が可能となります。

また、津波被害を受けた地域は今後の居住地として、高地部への移転も検討されており、安全な街づくりの為にも森林の役割は、震災以前にも増して重要視されるものと思われます。その為に今考えられる将来像も含めて以下に具体的な提言を行うものです。

 

1. 震災復旧への木材利用の拡大
津波で木造住宅に甚大な被害が出たが、大型鉄筋コンクリート建築物はともかく鉄骨造りの建物も被害は小さくなかった。阪神淡路大震災時と同様な、木造の被害が大量に出たからと単純に木造は避けるという風潮が見受けられるが、立地を考えるなど、単にハードで防災を考えるのではなく様々な施策を同時に検討する事で木造建物の健全な利用を図る必要がある。また、破壊された木造住宅の木材や海岸林の倒れた立木などを積極的に使った繊維板や積層木材、合板、バイオマス燃料等に積極的に使用できる仕組みを早急に立ち上げることが必要である。

 

2. 現地加工と流通の短絡化による木材の地域利用の仕組みづくり地域の木材を地域で使用する流通の仕組みが出来ていない、ないしはこの災害で流通網が破壊ところも多い。今後の復興の為に簡易杭製造機・簡易製材機等を各地に導入し、山から短い流通で復興資材として供給し、積極的に利用する。


3. 需要確保と産業立地偏在のリスク
国産材利用が増加していた港湾地域に集中していた合板工場群が被災し、低質材の販売先が無くなり、今後の木材販売に問題が出ることが危惧される。地域の豊富な森林資源を災害復旧につなげるための資材として有効に使うためにも、早急な工場の復旧が望まれ、これに対する国の支援が必要である。それと共に今後産業立地の偏在からくるリスクの分散、そして海外資源を利用する時代から、本格的な国産資源利用の時代を見据えると、内陸部への木材加工工場の移転を検討する必要がある。また、復興需要に必要だからといって輸入材や代替材に一方的に転換することは、林業再生のみならず被災地の雇用機会が奪うことになる。

 

4. 林内道の意義とその整備方法
未曾有の被害にみまわれ、孤立した避難所を結んだのは、国道や県道とともに、林道や場合によっては作業道でさえ大いに活躍している。これらの林内車道は、防災の立場からみても極めて有効であり、被災危険性の高い地域においては、国の積極的な関与でしっかりとした路網整備を期待する。それら道路の開設については、予算の仕組みにとらわれて無理に単年度の完成を目指すのではなく、自然の猛威や地域の自然環境に十分耳を傾け、配慮することを念頭において、建設事業の完結を複数年度とすることや数年間の補修を行い、より災害に強い道とすべきであると考える。

 

5. 海岸林造成と住宅と職場分離
海岸防護の人工的施設の無力さを経験した被災者の多くは、復興には自然の地形を配慮し、地域の人々の意向を踏まえながら、海抜の高い場所への街の移転が行われると思われる。高い防波堤を築くコストを考えれば土地を買収し、住民に高地に移転する資金を提供することは選択肢として合理性がある。そこで残された海岸に近い跡地で海岸に直近の場所は国が買収し松を植え、震災公園として松原を作るべきと考える。また、山の斜面利用の街づくりは、緩傾斜の森林が大きく開発される可能性がある。その場合は林業との共存を可能にする豊かな環境と災害に強い街づくりを望む。

 

6. 風評被害対策と事業所移転
原子力発電所の事故に鑑み、将来の周辺地域の木材への影響が生じる可能性があり、風評被害を想定した対策を検討する必要がある。また、避難対象地域に指定され、事業継続が厳しい林業関係の事業所の移転に関しては、地域産業の維持や地元雇用確保のためにも適切な援助措置が必要と思わる。

 

7. バイオマス利用の拡大
電力需給が厳しい中、暖房や熱エネルギーとしての木質バイオマス利用を積極的に進めるために山側から森林バイオマスを積極的・緊急的に原料として販売できる仕組みづくりを行い、林業を通じた雇用の確保を図るべきである。このことは、新しい街づくりにおいて、熱源としてのバイオマスを重視し、特に規模の大きな地方都市を再生する場合は、集中地域バイオマス熱暖房システムを構築することにつながる。

 

8. 被害地域の森林組合をはじめとした林業事業体への支援職員が被災したり、建物が破壊されたりして退職金や事業が休止状態での給与支払いなど一時的に早急な資金が必要になっている場合が考えられる。これらの資金手当ての対策を講じる必要がある。


9. 東北、北関東の豊富な森林資源が林業を活発にすることで、林業再生のモデルとするとともに、林業や木材産業を通じた地元雇用の確保など、様々な形で復興のシンボルになるような産業となってほしい。

以上

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■ <林道と人工林>

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